ブーケをきみに (ページ10)

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十ページ10

ニットでは暑く半袖では寒い、ブラウスだと風が吹いていたら肌寒いこの季節。去年は何を着ていたのだろうと思い出そうとしてやめた。その行為は無意味でしかないのだ。1年前のことを思い出せないのではなくて、記憶ががっぽりないんだから努力したところで無駄な時間だ。

『お母さーん、出掛けてくるね！』
「テヨンくんのところ？」
『も！ジェミンに……友達の忘れ物のボールペン届けてくる』
「ーーージェミン？」
『病院で友達になったんだ～。面食いのお母さんが喜びそうな超イケメンだよ』
「…………ジェミンくん」
『ねえ何噛みしめてるの？やめてよ、20歳以上年下の男の子に手出す気じゃないよね？お父さんが泣くよ』
「馬鹿なこと言ってないで早く行きない」
『ふふ、はーい。行ってきます！』

結局動きやすいパーカーとデニムにした。遊びに行く訳じゃないんだし、そんなにおしゃれしてもなあと思ったからだ。昨日は風が強い日だったから桜はほとんど散ってしまっていて、お花見をしたかったのに、と花が付いていない桜の写真を幼馴染みのドンヒョクに送った。

《お花見しよ》《花ねーじゃん。それに今年3回も行っただろ》《そうなの？》《あ、そんな時期？こんにちは俺は幼馴染みのドンヒョクです》やっぱりドンヒョクも私のこの事情ことは知っているみたいだ。幼い頃の私たちのツーショットの写真と共に《左の超イケメンが俺、右のブスではないけど可愛くもない子がA》と送られてきた。大人になってもこんな感じなんだこいつ……。知ってるし、と返そうとしたらドンヒョクからの着信。直接文句を言ってやる、と意気込んで受話にすると《イケメン幼馴染みでーす》と、もしもし、でも、私を心配する言葉でもなく、1発目からきつすぎる言葉が耳に入ってきた。

『切るよ、私お出掛けしてるんだから』
《どこ行くの？》
『ケーキ屋さん！』
《………………早くね？》
『いいの！それで午後はだらだらするの！』

特徴的な声は昨日聞いていたものよりも低くなっていて、私の“昨日”は本当に10年近く前のことなんだなってこんなことで感じてしまい鼻の奥がツンとした。とりあえず夜はお前の家行くわ、と言いたいことだけ伝えられて満足したのか電話は切られ、ガキ大将ドンヒョクの面影を見た。
アイドルだか俳優だかの誕生日を祝うラッピングされた電車に揺られながら、ポケットに入れたボールペンを軽く握った。