九 ページ9
『テヨンくん、私は24歳なんでしょ。仕事とかどうしてたの？』
「……毎年短期の仕事をやってた。そうすれば周りに迷惑が掛からないからって」
『じゃあ職探ししないとだ』
テヨンくんは自分の家のように私と一緒に玄関に入り「今日のご飯はなんですか」ってお母さんに聞いていた。お母さんもそれに普通に答えるしなんだかなあという感じだ。『お母さん、去年の私は何の仕事をしてた？』「工場で働いてたわよ。毎日お局の口をべちゃくちゃ話してた」『うげえ、じゃあ工場以外にしないとな』お母さんはわざと明るく振る舞ってくれているんだろうな、目は真っ赤で腫れているからたくさん泣いたんだってことが分かる。テヨンくんは私たちを心配して今日は一緒にいてくれているんだろう。特に大食いでもないのに「おかわりお願いします」と何回もおかわりを頼んでいた。
「それじゃあ、何かあったら連絡してね」
『うん』
「なくても連絡してくれていいよ」
『ふふ、お出掛けしたくなったらお願いするね』
「待ってるね」
テヨンくんを見送り、お母さんに去年の私のことをちょっとだけ教えてもらったあと部屋に行った。鞄から1本のボールペンを取り出し、それを机の上で何度か転がす。……朝一ならそんなにお店は混んでないだろうからさっと渡してすぐに帰ろう。ついでにケーキを何個か買って、今日のお礼に病院に寄ってテヨンくんに差し入れして午後はお家でのんびりすればいいや。のんびりの前に職探しをしないとかなあ……けどまだ退院したばっかだし…そんなに急いでも逆にうまくいかなかったり……。
『……あー、頭痛い』
頭を使ったから痛いのか何か脳に負担があったのか、後者であれば困るから、私はそれ以上考えることを放棄した。ジェミンにも何か買っていった方がいいのかなあ。もし持っていくとしたらクッキーとかマフィンがいいんだろうけれど、パティシエにお菓子を渡すってのもなんか……。ううん、よく分からないな。お店に飾ってねってお花でもいいのだろうか。でもそれだとジェミンへの差し入れじゃなくて、お店への差し入れになっちゃうな……。
『やめやめ、とりあえず寝よう』
アラームをセットし頭まで布団をかぶり中で丸くなると、温かくてすぐに眠くなってきた。病院にいたときはあんなに寝付けなかったのに、やっぱり家ってすごい。毛布からはどこか懐かしい優しい桜の香りがした。
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作者名：ららら | 作成日時：2024年2月16日 1時
