ブーケをきみに (ページ7)

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どんよりした空気を吹き飛ばそうと、ジェミンは何をしてる人なの？と話題を変えてみる。空元気が伝わってしまったのか、ジェミンは私の頭に手を置くとゆっくり左右に動かした。昨日も思ったけれど、ジェミンはパーソナルスペースが狭い人なのだろうか。私は特に不快に感じないけれど、嫌な人は嫌なんじゃないかな。あ、でも、これだけイケメンだったら嫌がられることもないか。

『ふふ』「なに？」『お兄ちゃんみたい』実のお兄ちゃんはいないけど、それに近いテヨンくんはこうして私を甘やかしてくれたっけ。散歩にも連れて行ってくれたし、あ母さんには内緒だよってぬいぐるみやお菓子も買ってくれて……それなのに私はテヨンくんが傷付くことをしてしまった。朝のことを思い出し、浮上した気持ちがまた沈む。

ジェミンは撫でるのをやめると、俺はねえ、と1枚のおしゃれな建物の写真を見せてきた。

「こんなんだけどパティシエだよ」
『え！？』
「ここの近くにあるこのお店で働いてる」
『……見たことない』
「何年か前に出来たところだから」
『なんでパティシエになろうと思ったの？』
「…………俺の好きな子、タルトが好きだったんだ。ケーキ屋以外ではそんなに売ってないんだよねって落ち込んでたから、それなら俺が作ってあげたらいいんだって思って、それで」
『……それで、そんな理由で決めたの？』
「うん、その子のことすごい好きだったんだ。ずっと一緒にいたいなって、まだ若かったけどそう思ってた。結婚もするならこの子がいいなあって」
『……今は？』
「ひみつ」

ジェミンは1枚の名刺サイズの何かをスマホケースから取り出し、それにボールペンで文字を書きこんで私に渡してきた。「俺の連絡先、それでこれはお店の名刺」『？』「暇だったら遊びに来て」薄ピンク色の名刺は、風に吹かれて舞っている桜と同じ色をしていた。膝の上に落ちてきた花びらを指でつまみジェミンに見せると「きれいだね」と昨日と同じ台詞を口にした。『桜が？』「桜も」『…………』「からかってないよ、本心だって」頬に影を落としたジェミンの長い睫毛に見とれていたら、その距離が突然近くなり思わず顔をのけぞらせる。

「…逃げた」
『セ、セクハラ、だよ』
「そんなに見つめてキスしたかったんじゃないの？」
『違うよ！』
「なーんだ」

ベンチに背を預けたジェミンに胸の高鳴りを感じ、これは気のせいだ、と自分に強く言い聞かせた。