ブーケをきみに (ページ6)

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『……20歳のときに事故に遭ってそのショックで記憶の一部が吹き飛んでるって言われた』
「…………」

ジェミンは顔をしかめ「20歳以降の記憶はどうなってんの」と、私がテヨンくんに聞いたこととと全く同じことを口にしたため、おお、とリアクションをしてしまった。「いいから、続き」リアクションのせいで緊張感が一気になくなったのか、呆れたようにジェミンは溜め息をついた。

「Aは今24歳なんだ」

昨日、鏡の中にいる私を見て唖然としている私に向かって、視線を下げながら言ったテヨンくん。

恐らく吹き飛んでいる記憶は10代後半から20歳までのもので、そのときに受けた脳の損傷が酷かったらしく物事を記憶する能力のキャパが非常に少なくなってしまい、そのキャパを越えたら事故前最後の記憶に再びリセットされてしまう、とのことだった。

「……今日の検査受けるの4回目なんだけど受けた覚えある？」頭が真っ白になっていた私は、首を左右に振ることしかできなかった。

『で、事故前最後の記憶っていうのが……』
「……高校生？」
『うん。吹き飛んだ分はもう絶対的に思い出せないらしくてさ』

私もまだ整理が出来ていないからごちゃごちゃな説明になってしまったけれど、それでもジェミンは理解できたみたいだ。人間というのは不思議な生き物で、その時の自分がそろそろいなくなると思ったら、私は『次の私がびっくりしちゃうから』と、伸びた髪を最後の記憶の高校時代そのまんまになるように整えに行くらしい。私がそれをしたらお母さんはテヨンくんに連絡して、精密検査をする準備を整えてくれていたのだという。

『……今はまだいいけどさ、10年後とか20年後とか、高校生の私が鏡を見て、本当の年齢の私が写ってたら倒れちゃうかも。実際、昨日びっくりしたし』
「………………」
『来年の今ごろも同じ説明されてるのかなあ』
「だろうね」
『ジェミンからもらった花束のことも忘れるんだよ。ジェミンのことも忘れるし、このプリンのことだって』
「……」
『去年の私は何を思ってたんだろう』

空は快晴なのに、私の頭上にだけ雷雲が広がっているようなそんな気分だ。去年のこと、来年のこと、考えるだけ無駄なのに。どうせまた来年になったら、去年はどうだったんだろうって思い出せない過去を引っ張り出そうとするんだ。