ブーケをきみに (ページ4)

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「A、落ち着いて欲しいんだけど」

そんな言葉と共にテヨンくんに手鏡を渡され、何か顔に付いているのだろうかとそれを受け取る。さっきしっかり拭いたつもりだけど、花粉が取りきれていなかったとか？親戚だけれどテヨンくんは格好いいからちょっと恥ずかしいなあ、と恐る恐る鏡を見ると、そこには私ではない人物が写っていた。……正確には“私”であるはずの知らない人。昨日まで見ていた“私”ではない“私”。顔立ちは私なんだけれど、この人は誰だろう、未来の私を写し出す不思議な鏡だったりするのだろうか、と混乱しながらテヨンくんを見ると「今から言うことは全部本当の話なんだけど」とゆっくり口を開く。その内容は信じがたいもので私は耳を塞ぎたくなった。

しばらく会ってないとはいえテヨンくんがうんと大人っぽく見えたのも、同い年だと言ったジェミンが年上としか思えなかったのもそういうことだったんだ。

明日には帰れるからゆっくりしてね、テヨンくんに言われたけれど、とにかく私は誰かと話したくて仕方なかった。テヨンくんから説明を受けているときに廊下から聞こえてきた泣き声はきっとお母さんのものだろう。きっと今は私に会えないんだ。その証拠に、私を強制的に連れてきたのに、検査をしてから1度も会っていない。

「帰りは送って行くからね」

私はまともな返事をしないままベッドに潜り、早くジェミンに会いたいと思った。性格はイマイチだったけどなぜか波長が合ったし、この嘘みたいな話をしっかり聞いてくれるような気がして、多少当たってしまったとしても文句は言わないようなそんな感じがしたから。もらった花束はテヨンくんが丁寧に花瓶に活けてくれた。月明かりに照らされているのが気味が悪いくらい綺麗で、美しいと感じたこれもいつかは過去になってしまうのだろうかと胸が痛くなる。

とてつもない不安に襲われた私は花に触れようとしたけれど、花瓶に届くことはなく、限界まで伸ばした私の腕はベッドの横にだらりと垂れた。

『ドラマみたいな話…』

特別に1番ランクの高いご飯にしといたよ！と話していたテヨンくんには申し訳ないけれど夕飯は食べられなかった。だって、これを食べところで私はどうせ忘れてしまうんだ。いくらおいしいものを口にしようと、楽しいことがあろうと、来年の今日には、きっと。

これが現実逃避というものなのだろうか。私は一旦冷静になろうとジェミンの顔を思い出そうとしていた。