ブーケをきみに (ページ11)

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十一ページ11

「いらっしゃい……あ、来てくれたんだ」

ジェミンは赤い三角チーフを付け、ショーケースの向こう側に立っていた。どうやら私が本日初のお客さんらしくてケーキは1つもなくなっていない。『ジェミンが作ったやつはどれ？』「俺のはまだお店に出せないんだ」『なんで！？』「見習いだから」『ジェミンのやつ買いに来たのに』ショーケースに並んでいるケーキは全てオーナーさんが作っているものらしく少しがっかりしていたら「ジェミンが作ったやつ食べてもらいなよ」と、ガラス張りになっている焼き場から現れた人が言った。

「でも……」
「大丈夫だって、特別ね」
「…見た目、あんまりよくないけど」
『いい！』
「……何がいい？俺が作ったやつだと、シフォンケーキ、チョコケーキ、タルトがあるけど」
『全部！ホールごと！』
「ホールごと！？そんな食べるの？」

何言ってるの、と目を真ん丸にしたジェミンに、これから病院に差し入れをしにいくから皆で分けてと言えばちょうどいいと伝えたら、どうやって持って行くつもりだと呆れられてしまった。そんな私たちのやり取りを見て笑ったのは、先輩パティシエだというクンさん。色白で、なんだかふんわりしていてショートケーキみたいな人だった。

「2人で持っていけば？」
「ヒョン？」
「今日は暇な日だから平気だよ。オーナーは店さえ回ればいいって人だからピーク帯までに戻ってきてもらえれば大丈夫」

商品でなくともさすがにタダでって訳にはいかないけれど、と申し訳なさそうにされたけれど、いくらなんでもそこまで図々しくない。それでも1ホール1000円という破格すぎる値段で売ってくれて、オーナーでもないのにこんなことをして大丈夫なのかと心配になった。人数が分からないから8等分するね、ケーキにナイフを入れるジェミンの横顔はとても綺麗だった。

クンさんは「よかったら新作のクッキーも食べてみて」とおまけしてくれて、私はジェミンとそれを分け合いながら病院に向かっている。甘すぎず、けれどしっかり味はついていて私好みのものだった。

『クンさん、オーナーさんに怒られたりしないかな』
「オーナーが平気って言ってたんだから平気でしょ」
『いつ？』
「……あの店のオーナー、クンヒョン」
『ええ……』

そりゃ自己判断で好き放題できるわけだ。ジェミンがクッキーを食べたそうにしていたから、それよりも早く私は最後の1枚のクッキーを自分の口に投げ入れた。