ブーケをきみに (ページ2)

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5分経っても10分経ってもナジェミンは帰る気配がなく私にあれこれ尋ねてきて、ひとつひとつにきちんとリアクションを送ってくる。私が病室に戻ればいい話なんだけど、不思議とその空間が心地よくて完璧にタイミングを逃してしまったのだ。ナジェミンが社交的すぎるのか、それとも逆に気まずくならないように会話を途切らせまいと必死になっているのか真意は不明だけれど、会話を楽しんでいる私もいた。

「検査入院なんだ」
『朝起きたらお母さんが顔色が悪いから病院に行こうって』
「どこも悪くなかった？」
『結果待ちだけど異常ないと思う。学校休んで来るほどじゃなかった。ジェミンはこの時間にいるってことは学生じゃないの？』
「うん」

私と同い年の2000年生まれ。誕生日は8月13日、猫を飼っていて毎日といっても過言ではないくらいの頻度で猫に会いに来る友人がいる。コーヒーと砂糖、それからパクチーが好きで、牛乳が嫌い。現時点でジェミンについて掴めた情報はこれだけだ。同い年と分かってからは敬語も取れていた。

質問攻めをして満足したのか、よいしょ、とおじさんみたいなことを言いながらジェミンは立ち上がった。もう行ってしまうのか、と思ったのはきっと入院してから誰とも口を聞いていなかったからだろう。寂しいから、とか、決してそういうんじゃない。

「明日まだいる？」
『明日までいる』
「また明日来るよ」
『来なくていい』
「暇だから夕方来るね」
『来なくていいってば！』

手をあげた背中に叫ぶと、窓が開いていたらしく廊下を歩いていた看護師さんと目が合った。それが恥ずかしくてジェミンからもらった花束で顔を隠すと「ここにいたの？」と、さっきとはまた違う低い声が私の名前を呼んだ。

『テヨンくん』
「ここでは先生って言わなきゃ」
『そんなこと言ったってテヨンくんはテヨンくんだし』

急遽なのにも関わらず、まあまあいい病室を用意してもらえたのはここで働いているいとこのテヨンくんがいたからだ。新人なのになぜそんな権限があるのか疑問抱き、検査の準備をしてくれたお局看護師さんや、受付のお姉さん、同僚の先生にテヨンくんのことを聞いたら、ある程度であれば融通がきくような功績を残しているらしく、何もおかしいことではないよ、と全員に言われた。

「ここは冷えるから戻ろう」

テヨンくんにぴったりの真っ赤な薔薇を白衣のポケットに差すと「これはAが持ってなきゃ」と、元の位置に戻された。