ブーケをきみに (ページ1)

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「綺麗ですね」

満開の桜を眺めていたら低い声がした。びっくりして肩を跳ねさせた私を見て、喉で笑ったのは私と同い年か少し上くらいの男の子。ーー年齢的に“子”というのは適切ではないのかもしれない。顔の整ったその人は花束を持っていて、どこか悲しそうに笑っていた。

『……きれい、って』
「あ、桜がですよ。勘違いしました？」
『……してません！』

なんだこいつ。気分よく桜を見ていたのに台無しにされたから自分の部屋に戻ろうとベンチから立とうとしたら、あろうことか隣に座ってきたのだ。「これ、あげます」『…………私に？』「はい」『どうして？』「……あげる予定だった人がいなくなっちゃったから」初めて会う人にもらっても嬉しくないと突き返せないのは、ここが病院だからだろうか。彼は小さく震えていて、大人しくもらうことしかできなかった。

「……無駄にならなくてよかった」
『……ちゃんと飾ります、えっと』
「昨日退院していたみたいで」
『退院？』
「はい、退院です」
『………………』
「もしかしてこれも勘違いしちゃった？」

ごめんごめん、少し大きめの歯を見せて笑った彼には先程の暗さはないけれど、どこまで人をおちょくれば気が済むのだ、と私は腹が立った。イケメンは性格が悪いという噂は本当なのかもしれない。けど、私のいとこのお兄ちゃんはイケメンだけど優しい。こいつの性根に問題があるに違いない、一輪の薔薇だけ抜いて残りは全て返すと「いらないの？」と目を丸くした。

『いらない』
「5万ウォンもしたのに？」
『…………』
「こんなの持って家に帰ったらどうしたんだって家族に笑われる。それは嫌だから君が貰ってくれると嬉しいな」

性格がクソでもなんでも顔がよければ許されることが多いという噂も、おそらく本当だ。きらきらのビー玉のような瞳に見つめられて断れる女がどこにいるというのか。膝の上に置かれたままの花束を引ったくり『もう返しませんよ』と潰さないように抱き締めると「ありがとね」そう言って私の頭を撫でた。

「わお、怖い顔」
『…………』
「俺ナジェミンって言うの。君は？」
『……言う必要ある？』
「教えてくれなきゃ返してもらうよ」

彼のーーーナジェミンの視線は花束に向けられていて、私は聞き逃したらいいと思い、自分の耳にやっと入るくらいの小さな声で名乗った。それでもナジェミンはしっかり聞こえていたようで「Aちゃんかあ」と私の名前を呟いた。