言わせたがり。 (ページ8)

今日:7 hit、昨日:0 hit、合計:8,537 hit

▽君の×× ページ8

青side

渋谷すばる。
高校3年で一番最初にやるHRに完全に遅刻しているのに反省の色も見せないで苦笑いする先生に軽く謝る。

そんな問題児が隣の席だと知った時は怖くして仕方がなかった。
昼食になるとパンとか買ってこいってパシられるのかな、お金を貸して欲しいと言われるのかな、なんて妄想をしてドキドキしながら隣に視線を向ける。

遅刻してきた彼女は眠たそうな表情をしていた。先生の話がつまらないのか、制服のポケットから苺の飴を取り出すとそのちっちゃな口に放り込む。

いちごの甘い匂いが鼻をくすぐる。
横から見る渋谷さんは顔が整っていて美人の類だ。たまに１,２年の時に校内でたまに見かけていたけど、当時より髪が切られて今ではボブカットになっていて凄く可愛いらしいと思う。

ふと、彼女と目が合う。

「ね、君の名前教えて」

透き通った声で先生に聞こえないよう、小学生みたいなノリで聞いてきた。席は後ろの方だから多分バレてない。

「えっ…と、安田章大って言います」

「安田くんね。渋谷すばる、よろしゅう」

くしゃっと笑う彼女は今までの怖さを吹き飛ばすような無邪気さで、ストレートに言うともうめっさ可愛かった。

手を差し出されて少し戸惑ったけど、無意識にその小さな手を握って少し冷たいなって思う自分が気持ち悪い。

冷え性なのかな、か弱そうな女子やもん。誰かが守ってあげないと簡単に折れてしまいそう。

渋谷さんが控えめに笑って繋がれていた手を離す。離された手が寂しいと感じてしまい、恥ずかしさも混じえてはにかんで笑う。

その後も色々話しかけて来てくれて、つまんないと思ってたHRもあっという間に楽しく過ごせて終わりのチャイムがなった。

担任の先生が起立をかけ、号令をするとぞろぞろと我先に帰ろうとするのに渋谷さんは机に座ったまま。

「渋谷さん、帰らへんの？」

「…その渋谷さんってやめよか、どうせならあだ名にしよ」

スマホから僕に目線を移して、ツンと口を尖らせる。

「なんか、さん付けとか苦手やねん」

「え、じゃあ……渋やん…とか？」

咄嗟に頭に浮かんだあだ名で「それええやん!!」と笑う渋やんは小学生みたいな幼さを感じさせられて、何というか一緒にいて楽しい。

「あ、お迎え来たわ」

「渋やん、誰か待ってたん？」

「…まぁそやな。
じゃあまた明日ね、ヤス」

ヤスとは僕のあだ名なのか。
高校三年生にしてあだ名で呼ばれるだけでこんだけ嬉しいのは何故だろう。