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最近luzが現場でよく本を開いているのを見る。彼方は注意深くそれを見ていた。本を持ち始めてからluzの雰囲気が大きく変わったからだ。
そうしていつもの様に窺っていると今日は先日と違う本を開いていた。
赤いビロードの表紙に金色の文字が刻まれている。
『シンデレラ』
表紙を撫でた指先と表情に無性に腹が立った。
あの本には確かに見覚えがある、否、見間違う筈がない。あれは昨日確かに彼方が背表紙を撫でて時雨が懐かしいと言った本だ。
luzという男が改まってこんな本を読みたいと思うわけが無い。シンデレラなんて読み返す程の物語ではない。ましてや書店で買う程の。
彼方は焦燥感に駆られていた。
そして思わず帰り際に声を掛けた。

「luzさ、最近よく本読んでるよね、何かあったの?」

「家の近くにレトロな書店を見つけたんです、特に本に興味が出た訳では無いんですけど……。」

単に恥じているのか、それとも他に理由があるのかどこか言いづらそうに言葉尻を濁した相手への苛立ちを噛み殺すように彼方はその続きを促した。

「けど?」

「その書店の店員の方に、一目惚れしてしまって……。」

照れ臭そうにはにかんだ相手に言いたいことは沢山あった。でも仕事の関係上、こじらせる訳にはいかない。

「へぇ、雰囲気ガラッと変わったから何かあったのかと思ったけど、そういう事か……。」

(時雨の事だから必要最低限しか言葉を発さない、けどluzはどこまで知っているんだ?)

彼方の脳内は様々な思考が逡巡していた。
そして出した答えは目の前の相手が持つ時雨の情報を確認する事を優先する事だった。

「その話、詳しく聞かせてよ。」

ありったけの表情筋を使っていつもの笑顔を作る。
何も知らない奴に時雨は渡せない。
渡すつもりもない。
万が一違う店の勘違いって事がわかればそれはそれで構わない。

「まぁ、飲みなよ。」

「頂きます、それにしてもそらるさんがこんな話に食いつくなんて思いませんでしたよ。」

「何となくだよ。」

なんとなくな訳がなかった。彼方にとって今までの生涯とこれからの生涯を揺るがす問題なのだ。彼方の中で時雨はこの世の全てと言ってもいい程重要な歯車だ。
おいそれと手放す事など出来るはずが無い。

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作者名:雲英 | 作成日時:2017年11月4日 10時

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