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時雨の18歳の誕生日パーティーは執り行われなかった。
それは昨年の時雨の修学旅行中に起こった「不慮の事故」のせいだ。時雨が出かけている間に一家は皆大量の遺産を残して亡くなった。
その全てを受け継いだ時雨は大学へ進むとまた髪を伸ばし始め、大学へ着ていく服は時雨の母のものであった。
それから母方の祖母がなくなり、細波書店を継いだ。
大量の遺産を抱え、それすらも隠すようにひっそりと暮らしている。
元々食は細かったのに、今ではその半分程度なのではなかろうか。

「かーなーた。」

「ああ、ごめん昔の事を思い出してたよ」

時雨は「そう……。」とだけ呟きいつも客が来るまで座っている椅子に腰掛けて本を読んだ。

その様子をみつめながら今の彼方には以前のパラドクスは消えつつあった。
彼方はかつて西洋の姫君の様だった時雨に恋していた。
それは今も変わらない。しかしそれは美しいからと言うだけでは無くなっている。
見透かすような瞳に透き通る声。
儚さ、強かさ、波動。
その全てが心地好いのだ。
ただ、それを伝えるだけの勇気を持た無いだけなのだ。
いくら美しい女性の容姿をしていても、時雨は男なのだ。
それに、時雨が恋愛をしているところはいつだって見た事が無かった。
時雨の恋愛対象だって知らない。
そんな状態で時雨に想いを伝えて離れて行くよりは、今のまま幼なじみのままで居た方がいい。
そう思っている。
見透かすようなあの澄んだ瞳にはとっくに気づかれているのかもしれないが。

気が付けばもう日が傾いていた。

「今日は帰るよ、戸締りにはくれぐれも気を付けて」

「有難う、またね」

ゆらっと振られた手はやっぱり痩せていた。

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作者名:雲英 | 作成日時:2017年11月4日 10時

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