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時が経った。
眠っている間、酷く長い夢を見ていた気がする。
でも、それは夢では無く、ただの遠い過去の記憶だ。
胸辺りまである長い黒髪を丁寧に櫛で梳く。
その胸には膨らみは無く、ただパジャマがすらりと肌の上を流れているだけだった。
それを嬉しいと思う事も、悲しいと思うことも時雨には無い。
プツ……プツ……
鏡の前でパジャマの釦をひとつひとつ外していく。
鳩尾の辺りで掛け違えていた。
するりと腕から袖が落ち、当たり前に布が畳の上に落ちた。
姿見に映るのは下着姿の自分。
胸の膨らみも肌の柔らかさもそこには見られない。
明らかにこの身体は男のそれを纏っている。
それでも中性的な美しい顔付きと、健康的な女のそれよりも細い四肢だけしか晒されなければ、違和感無く皆口を揃えて「女だ」と言うはずだ。
(……なんて。どうだっていいのだけれど……。)
藍色のワンピースを着て、薄く化粧をする。
すっと鏡に向かって微笑んでみて、手ぐしで二回髪を梳く。
「いい天気……。」
店に出てシャッターを開けるところから一日が始まる。
「いらっしゃい、今日は暇なの?」
開店の時間に来てるなんて珍しい。
いつもお昼過ぎか閉店間際にやってくるのに……。
「暇じゃないけど心配だから見に来たんだよ……。」
まだ眠そうな仏頂面。昔と変わらない。
「時雨また痩せたんじゃないの?飯食ってる?」
「食べてるよ、彼方こそ忙しいからって不摂生は駄目よ?」
面倒臭がりで、仏頂面で、そのクセに世話焼きな彼は昔と変わらない曖昧な表情で笑った。
「今日は久々に手伝うよ。」
彼がここを訪れるのは三ヶ月ぶりだった。
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作者名:雲英 | 作成日時:2017年11月4日 10時