どちらからともなく ページ7
「傑が、いつもとはちょっと違うような気がして」
目を何処に持っていけばいいのか分からない。目を右往左往させながら、それでも勇気を振り絞ってそう言った。傑は私のことをじぃと見つめてくれているようだけれど、私は上手く彼の顔を見ることが出来なかった。怖かった。どんな顔をされるのか、想像も出来なかった。
指先が冷たい。微かに震えている。
でも、傑の話を聞かなくちゃ。傑が何を思っているのかを知らなくちゃ。ここに来た意味がないじゃないか。
私は恐れを振り切って私は傑と目を合わせた。
「私に言いたいことがあるなら、言ってほしいの」
私の言葉にか、挙動不審だった私が急に目を合わせてきたからか、傑は目をまた見開いていて。そうして彼は目を伏せて、何かを考えるような間を置いてから「うん」と言って口を開いた。
「…………Aの気持ちは、ちゃんと分かってるんだ。君が私に『嫌い』なんて言ったのは口をついて出たことだったんだって」
「……うん」
そんなこと思ってもいない。思ったことなんてない。嫌いだなんて、嘘でも言ってはいけないことだった。
それなのに。
『もう!知らない!傑なんて嫌い!!』
「君に嫌いだと言われて、動揺してしまって…………気が付いたら泣いていたんだ」
ぽろぽろと、何も言わずに涙を流す傑の表情を思い出す。思い出しただけで、胸が張り裂けそうになるくらいに痛かった。
「……悲しかった」
「うん」
「そんなこと、嘘でも言ってほしくなかった」
「……うん」
涙が、堪らなく溢れてきた。
「……A」
傑が、私の名前を呼んだ。細められた目が、真っ直ぐに私を射貫いた。
「私のこと、好き?」
「……うん」
誰よりも、何よりも、大事で大切で、大好き。
「大好きだよ、傑」
嫌いなんて言って、ごめんね、と。私が言いながら泣くと、傑はいつものように優しく笑って、「泣かないで」と涙を拭ってくれた。
その手が暖かくて、優しくて、愛しくて、胸がほんわりと灯火が灯ったようだった。
「私も好きだよ、A。大好き」
傑が私の頬を両手で包んで。その体温が心地よくて目を閉じる。すり、と額が合わさったのが分かって、目をゆっくりと開けると、愛しい愛しいって言ってるみたいな傑と目が合って、私は思わず顔を綻ばせた。
そうしてどちらからともなく唇を重ねて、またどちらからともなく笑った。
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翠(プロフ) - はああああほんっっっとに…癒されました……ありがとうございます……… (2023年1月7日 23時) (レス) @page9 id: 375689edf5 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 夜顔さん!コメントありがとうございます!夏油さん泣いちゃったら可愛いなぁというだけで書いてしまったのでどうなることやらでしたがなんとか完結出来て良かったです!(笑)こちらこそそんな風に言って頂けて嬉しいです!読んでくださりありがとうございました!! (2022年1月23日 11時) (レス) id: 4cbec933ab (このIDを非表示/違反報告)
夜顔(プロフ) - 夏油様が可愛くて格好良くて萌え死にそうでした😆こんな良い作品をありがとうございますっ! (2022年1月23日 4時) (レス) @page9 id: a5b9bd8745 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2022年1月21日 13時