話してくる ページ6
傑はいつも優しくて、頼りがいがあって、強くて誠実で、私をいつも大切にしてくれていた。いつか、私が任務で怪我をしたときに、硝子の手当てを受けていたところに部屋へと飛び込んできて、私の怪我の具合を聞いてから、優しく優しく抱き締めてくれた。抱き締めてから、『あまり心配させないでくれ』『心配した』と揺れる声で言ってくれた。
あの時の声も体温も、ずっと私の胸のなかにある。
あったはずなのに、私はそれを、忘れかけていた。
「……私、ちょっと行ってくる」
「ん?」
私はグラスを手に取るとグラスに入ったジュースを一気に飲み干し、立ち上がった。
「傑と話してくる」
もう一回、話してこよう。話して、傑の話を聞いて、ごめんねって言おう。
私だって、傑が何よりも大事なんだ。大切なんだ。
「うん、いってら」
「ありがと、硝子」
私は硝子の部屋を後にした。
*
ひとつ深呼吸をして、傑の部屋の扉をノックした。コンコンコン、と音を鳴らし、暫し待機する。が、一向に部屋から傑の声もしなければ扉が開くこともない。
どうしたのだろう。居ないのだろうか。それとも、私だって分かっていて、無視されている?
ネガティブな思考が頭を過ったが、ぶんぶんと頭を振ってそんな思考を振り切る。そして、もう一度ノックしてみようと手を伸ばしたとき。
「A?」
「傑……!」
寮へと帰ってきたところなのだろう傑がこちらの方へと歩いてくる。私がいきなり自分の部屋の前に居たことに驚いているのか、細い目を少し見開いている。
「どうしたんだい?そんなところで」
「あのね」
躊躇いや不安や色んなものが押し寄せてくる。けれどそれらを全部無視して私は口を開く。
「話があって、ちょっと時間いい?」
私がそう言うと、傑は「うん、いいよ」と言って部屋の鍵を開けて部屋へと通してくれる。「どうぞ」と。「ありがと」と言って私は傑の部屋に足を踏み入れた。傑のにおいが強く私の鼻に届く。
靴を脱いで、自然と私の定位置である傑のベッドに腰掛ける。傑は部屋の鍵をかけてからこちらへとやって来る。
「それで、話ってどうしたんだい急に」
傑が私の隣に腰を下ろす。それに少し安心というか、いつものようにしてくれるんだということに嬉しくなりながら、私は「うん」と言う。
「……昨日の、ことなんだけどね」
「それは今朝に」
「うん、でも、なんか、なんかね」
ぎゅっと膝の上にある手を握り締める。
「傑が、いつもとはちょっと違うような気がして」
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翠(プロフ) - はああああほんっっっとに…癒されました……ありがとうございます……… (2023年1月7日 23時) (レス) @page9 id: 375689edf5 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 夜顔さん!コメントありがとうございます!夏油さん泣いちゃったら可愛いなぁというだけで書いてしまったのでどうなることやらでしたがなんとか完結出来て良かったです!(笑)こちらこそそんな風に言って頂けて嬉しいです!読んでくださりありがとうございました!! (2022年1月23日 11時) (レス) id: 4cbec933ab (このIDを非表示/違反報告)
夜顔(プロフ) - 夏油様が可愛くて格好良くて萌え死にそうでした😆こんな良い作品をありがとうございますっ! (2022年1月23日 4時) (レス) @page9 id: a5b9bd8745 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2022年1月21日 13時