カニバリズム ／ ut ページ12
Aという女は、それはそれは最高の女だった。手入れの行き届いた美しい黒髪に白い肌。程良い大きさの胸に細すぎず太すぎない体。少し低めの落ち着いた声に、柔らかな笑顔。誰もに優しく、頭も良い。正に才色兼備な女。
一目見て、彼女は僕の運命の人だと感じた。それから数年。他の女との関係を全て切り彼女に猛アタックし、何とか恋人関係に発展。春には花見、夏には花火大会。秋には美術館に足を運び、冬には温泉旅行を楽しんだ。少しずつ僕らは仲を深め、何度も寝具の上で愛し合った。僕は彼女の事を心から愛していたし、彼女も僕の事を心から愛していたと思う。
その日も、僕と彼女は激しく愛し合った。汚れた体を風呂で綺麗にし、二人で同じベッドで眠りについた。暫くして彼女が寝息を立て始めたのを確認し、僕は彼女の心臓を包丁で一突きした。生まれて初めて、人を殺めた。
真っ白な机の上、生まれたままの姿で眠りにつく彼女に最後の口付けをする。徐々に冷たくなり始めた彼女に、急いで椅子に腰をかける。そして、彼女の顔を数秒見つめ、手を合わせる。
｢……いただきます。｣
ゆっくりとナイフを未だ柔らかな彼女の腹部へ、そして優しく滑らせる。大きめに切り分けた彼女の肉をフォークで刺し、口に運ぶ。瞬間、あまりの美味しさに目を丸くした。愛する人間の肉はこんなに美味しいのか。ナイフを持つ手が、フォークを口に運ぶ手が、止まらない。胸、二の腕、太腿。頬に舌に眼球。気になる所全てを堪能すると、気が付けば彼女は原型を留めない姿となっていた。こんなに夢中になる女は初めてだった。
｢ご馳走様でした。今までの誰よりも美味しかったで、A。｣
カチャリ、小さな金属音を立てナイフとフォークを机に置く。彼女の赤く美しい血が机から床へ、大きな染みを作っている。それを眺めながら、胸元のポケットから煙草を取り出し火をつける。吐き出した煙がゆらゆらと宙を彷徨い、消える。
｢……こんなに煙草が美味いのは初めてや。｣
小さく呟いた言葉は、誰に聞かれることも無い。体に悪いから、と煙草をやめろと困り顔で注意してくるアイツは。優しい笑顔を向けながら｢鬱くん。愛してるよ。｣と抱きしめてくれるAはもう、居ない。気が付けば、自身の頬に生温かな何かが伝う感覚。
｢嗚呼、ほんまに、愛しとった。｣
自身の手で幸せを壊した男は独り、届かぬ愛を囁きながら涙を流した。
─
カニバリズム：食人行為や人肉への性的嗜好。
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平凡な人(プロフ) - うん。凄い。性癖にドストライクで刺さりました!更新楽しみにしています！ (2022年2月3日 20時) (
レス) @page9 id: 244f5e227a (このIDを非表示/違反報告)
空白(プロフ) - めちゃくちゃ好みです！！毎回更新楽しみにしてます♡ (2022年1月26日 10時) (レス) @page22 id: 765b91b6bf (このIDを非表示/違反報告)
りんごうまい - ところどころ性癖に刺さった (2021年10月21日 23時) (レス) @page20 id: ef60100ca2 (このIDを非表示/違反報告)
たらい(プロフ) - ど趣味でえぐいっすふファンになりやした (2021年8月1日 0時) (レス) id: 0b993ff198 (このIDを非表示/違反報告)
R(プロフ) - 好きです!! (2021年6月13日 14時) (レス) id: f606088b79 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：悲哀 | 作成日時：2021年5月28日 19時
