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部屋に入ると、ふわりと香るスイレン。
シンプルな部屋に、大量のファッション誌、ファイルが目に付いた。
そして、温かな青年を思わせるハーバリウムが飾られている。
青年はベッドを背にして、床を見つめていた。
その隣に、遠慮がちに座る。
「…やっと、かなうと思ったのに」
ぽつり、と零れる言葉は空虚だった。
アシスタントをしているデザイナーの元にきた仕事。
担当はデザイナーだったが、空いた時間でそのデザインをしていた。
先方が来た時に、たまたまそれを見られたらしい。
そしてそれは採用されるところだったが。
「…あの人は知ってたんだ…僕が描いてること」
そして、青年のデザインにアレンジを加えたものが担当の人から出された。
先方はえらく気に入って、結局そのデザインが使われることになったと。
「僕のデザインとはひと言もいわれなかった。アシスタントだから、担当のアシストでそれを描いていたんだろうって向こうも納得していて」
悔しい、最後にそう呟いた。
自分の力が至らなかったことも、自分の構想が認められたはずなのに、自分のモノとは認められていないことも。
「…うん」
神宮寺なら、こういう時なんて言ってくれるだろう。
「……」
そっと投げ出された手を握った。
少しでも気持ちが伝わりますようにと、願いを込めて。
「……、いわはしくん」
顔を僅かに上げた青年と目が合った。
「…っ」
空いた手が頬に触れ、青年の顔が近づいてくる。
瞬きもできないまま静かにしていると、その顔は肩口にこつん、と預けてくる形になった。
とくん、とくんと鼓動が早くなったのを感じてゆっくり息を吐くと、その頭を静かに撫でた。
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きぃぽぽ(プロフ) - 花さん» 花さん*はじめまして、コメントありがとうございます!ほんの少しの文なのに、そうして雑誌まで見返して頂いて!嬉しい限りです。最後まで是非お楽しみください (2020年1月5日 20時) (レス) id: 8ca93dc13a (このIDを非表示/違反報告)
花(プロフ) - 他にない視点のおはなしでいつもどきどきしながら読ませていただいています*^^*覚えある雑誌のシーンに「あ!」と切り抜きあさりました(笑)いつも素敵なお話ありがとうございます*^^*つづきもたのしみにしています♪ (2019年12月29日 8時) (レス) id: 5858306d0d (このIDを非表示/違反報告)
きぃぽぽ(プロフ) - ななみさん» はじめまして、ななみさん*読んで頂き、ありがとうございます。とても嬉しいお言葉です、本当にありがとうございます。これからも楽しんで頂けたら幸いです。 (2019年11月8日 0時) (レス) id: 8ca93dc13a (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - はじめまして。読ませていただいて、優しい空気感惹かれました。読んで、映像が(映画みたい)頭に浮かんでくる作品が好きです。きぃぽぽさんの作品をもっと読みたいです。更新楽しみにお待ちしております。 (2019年11月7日 16時) (レス) id: 56b007f690 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きぃぽぽ | 作成日時:2019年11月3日 22時