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ふあ、と小さい声を出しながら欠伸をもらす。
移動車の中では少し気が緩む。
次の現場に着くまではまだ時間があるなと風景を見ながら思い、窓に頭をもたれかからせる。



「玄樹、ねむいの?」



柔らかく笑って神宮寺がこちらを見ている。
うん、と簡単に返して、目を瞑る。
まぶたの裏に映り出すのは、あの日のことで。








「合鍵、返して」



彼は理解できないといったふうに聞き返してきた。
もう1度、合鍵返してと伝えれば両頬に手が添えられる。



「なんでそんなこと言うの…げんきは俺のこと、好きじゃなくなったの?」


「そうじゃなくて」


「じゃあなんで!!!」




その手に力が込められ、そのまま床に投げ出される。
突然の衝撃に床を見つめたまま、理解が遅れた。
彼の顔を見るより先に、腹に強い痛みが走る。



「っ………」


「俺は、、何よりもげんきが大事なのに、どうして分かってくれないの」


「でも、俺のせいで夢を諦めて欲しくない!」



もう1度、彼が足を振り上げたのを見て身構えた。
先程より強い蹴りに声が漏れる。


「しょうがないでしょ…?そうじゃなきゃ、げんきは俺と会ってくれないじゃないか………」




膝をつきうずくまり、頭を抱える彼の言葉に、胸が締め付けられた。




「おれが、いつでも会えるようにしなきゃ、げんきと会えないから……」




彼は理解してくれると思った。実際、理解してるからこそ我慢させ、追い詰めてしまった。
自分のせいで、彼がこういう行動をとってしまったのなら。




起き上がって、彼を抱きしめる。






「…ごめん、わかった…でも、ちゃんと仕事は行ってほしい。大丈夫、俺はこの家にちゃんと帰ってくるから」








鈍い腹の痛みを思い出し、窓から頭を離す。
今日もちゃんと彼は仕事に行った。
帰ってきたら慰めるように、ちゃんと想ってると伝えるように、体を重ねなければならないのだろう。




こぼれそうになったため息を飲み込んで、ふたたび窓に頭を預けた。

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きぃぽぽ(プロフ) - 花さん» 花さん*はじめまして、コメントありがとうございます!ほんの少しの文なのに、そうして雑誌まで見返して頂いて!嬉しい限りです。最後まで是非お楽しみください (2020年1月5日 20時) (レス) id: 8ca93dc13a (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 他にない視点のおはなしでいつもどきどきしながら読ませていただいています*^^*覚えある雑誌のシーンに「あ!」と切り抜きあさりました(笑)いつも素敵なお話ありがとうございます*^^*つづきもたのしみにしています♪ (2019年12月29日 8時) (レス) id: 5858306d0d (このIDを非表示/違反報告)
きぃぽぽ(プロフ) - ななみさん» はじめまして、ななみさん*読んで頂き、ありがとうございます。とても嬉しいお言葉です、本当にありがとうございます。これからも楽しんで頂けたら幸いです。 (2019年11月8日 0時) (レス) id: 8ca93dc13a (このIDを非表示/違反報告)
ななみ(プロフ) - はじめまして。読ませていただいて、優しい空気感惹かれました。読んで、映像が(映画みたい)頭に浮かんでくる作品が好きです。きぃぽぽさんの作品をもっと読みたいです。更新楽しみにお待ちしております。 (2019年11月7日 16時) (レス) id: 56b007f690 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きぃぽぽ | 作成日時:2019年11月3日 22時

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