28 sideY ページ28
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『な、なぜ……』
「プラーミャがお前を狙ってるってわかったんだ。一人にしておくわけにいかねぇだろ。」
『いや、ここ警察病院だから…』
「ゴチャゴチャ言ってねぇでさっさと飯食え。」
そう言って分厚いファイルを取り出し、読み始めた松田くん。
え、本当に泊まるつもりなの?冗談じゃなく?
いや、彼はこういう冗談を言うタイプではないか…
「……心配なんだよ。あのとき、またお前が目の前からいなくなると思った。」
黙々と病院食を食べていると、彼は資料に目を移したままそうポツリとつぶやいた。
“ また ”
そのたった二言が、彼と私の間の記憶の溝を表しているようだ。
そうか、彼にとっては二度目なんだ。
でもどうして彼は10年もの間、私を探してくれていたんだろう。
ふと抱いた疑問を私は聞くことができず、ご飯と一緒に飲み込んだ。
「……諸伏とは、結構仲良いのか?」
ご飯を食べ終えて食器を整理していると、彼がそう尋ねる。
あまりに小さな声だったから聞きこぼしそうになった。
『交番時代はね、よくしてもらっていたよ。年も同じだし、いろんなこと教えてくれたし、刑事になりたいって話したらすごく応援してくれて。諸伏さん、料理上手だから美味しいお店もたくさん知っていてね。またあの定食屋さん行きたいなぁ〜。』
警察学校卒業したばっかりでガチガチだった私の肩の力を抜いてくれた人。優しくて、市民のみんなにも好かれていたなぁ、懐かしい。
猫が木の上に登って降りられなくなったとき、諸伏さん助けたはいいけど落ちちゃったなんてこともあったな。
思い出してクスクス笑っていたら、いつのまにか松田くんが立ち上がってこちらに身を乗り出していた。
「好きなのか?諸伏のこと。」
あまりの至近距離に、息が止まるかと思った。
でも、彼は瞬きひとつせず、私の瞳を捕らえる。
まるで蛇に睨まれた蛙の気持ちだ。
『好き…だけど、それは憧れとか尊敬っていう意味だけど。』
何でこんな言い訳みたいなことを彼に話さないといけないんだろう。
でも、そうでも言わないと彼は離れてくれない。そう直感したから。
「そうか。」
ちょっと嬉しそうに口角を上げた松田くんはパッと離れ、また椅子に座り直す。
な、何なの?!
涼しい顔してまた資料読み始めた彼を見て、そう声を荒げたくなる気持ちを堪える。
どうして私の心臓、こんなにうるさいんだ。
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作者名:舞子 | 作成日時:2022年11月8日 22時