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“ 陣平くん!こっちこっち!”
待ち合わせ場所の桜の木の下へ向かうと、一足先に俺を見つけたAは笑顔で大きく手を振る。
“ ごめんね、急に呼び出して。”
“ 別に。部活休みだったし。”
“ よかった。”
その日は、新学期が始まる前日で、桜祭りが開催されている日だった。
俺らが初めて話した河川敷は桜が満開で、桜並木を歩きたいから祭りに行こうとAから連絡があった。
“ りんご飴ある〜!買ってきてもいい?”
“ あぁ。”
まるで子どものように騒ぐA。
まあ、そうか。Aの通う学校はいわば金持ちの集まり。こんな庶民が来るような場所には友達と来ないんだろう。
でも、なぜかAは俺と価値観や感覚が似ていて。こういう場所が大好きだといつだか教えてくれた。
“ おいしい〜!!”
“ 落とすなよ。”
“ 気をつけます(笑)”
明日から俺らは中3になる。
受験生になったらAと過ごす時間は、
この笑顔を見る時間は少なくなるのだろうか。
そんなことが気になってしまうくらい、俺の中でAの存在は大きくなっていた。
“ え、A、肩どうした?”
そんなことを考えりんご飴を頬張るAを眺めていると、服の隙間からチラッと痛々しい傷跡が見えた。
驚いた俺がそう尋ねると、並んで歩いていたAが俺を見上げる。
出会った頃はほとんど同じだった目線が、今は随分と下になった。
だから余計、その視線は俺の気持ちを惑わせた。
“ これね、この前学校から帰っている途中に電柱でぶつけたの。”
“ ハァ?”
“ ちょっとぼーっとしててね(笑)頭じゃなくてよかったよ(笑)”
「すごい音したけど」とそのときを思い出し、恥ずかしそうに話すA。
“ じ、陣平くん…?!”
“ ここ、桜の木ばっかだろ。目の前で怪我されても困るし。”
“ ふふ(笑)ありがとう。”
俺のよくわからない言い訳のような言葉に、Aは俺の好きな笑顔を向けてくれ、ぎゅっとその手を握り返してくれた。
小さな手なのに、俺よりずっと温かくて。
心臓は異常なスピードで動いているのに、なぜか安心した。
“ また来年も来ようね。”
帰り際、Aとそう約束した。
来年も一緒に過ごせる。それが嬉しくて浮き足立って帰路についた。
でも、その約束は果たされることはなかった。
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Aは、その次の日、突然姿を消したのだから。
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作者名:舞子 | 作成日時:2022年11月8日 22時