77.気付いた ページ28
「A、動けないんだけど………」
固まった彼の表情を目にして我にかえる。
「あ、…ご、ごめんなさい!」
私は一体何を…?
自分の行動が急に恥ずかしくなって、彼から顔をそむける。
今思うと、記憶を無くしてからの私はいつの間にか無一郎くんに対してすっかり敬語が抜けてる。
これじゃあ、馴れ馴れしいってまた怒られてしまう。
「に、任務なんですよね。私、取り乱しちゃったみたいで…すみません!気にせず行って下さい!!」
きゅっと自分の服の裾を掴む。
「はぁ」っと、タメ息が聞こえた。
呆れられたんだ…と胸が苦しくなる。
と、彼の手がぽんっと私の肩におかれた。
「まだ、体全快じゃないんでしょ?無理したら風邪引くよ」
ぽふっと布団を肩からかけられた。
「あ、ありがとうございます…」
「もう敬語もやめなよ、さっきまでみたいに楽に話して。………僕だけため口って変でしょ?Aの方が年上なんだし」
まさかの提案に拍子抜けした私はぽかんと口を開ける。
「何?その顔?」
「い、いいの?」
「少し前までそうしてたんだから、今更だと思うけど?」
言いながら視線を反らす彼は照れているのだろうか。
「…ありがとう」
「別に」
そう呟いた彼の表情は言葉と裏腹に嬉しそうに見えた。
*****
無一郎くんが帰ったあと、二度寝した私はまた夢を見た。
さっきの夢の続きだった。
崖に追い込まれて、行き場を失って。
先程の禍々しい気配を纏った女に追い付かれて。
女が地面を蹴って飛びかかって尻餅をついて転んで諦めかけた時…
あぁ、貴方が助けに来てくれたんだ。
「───霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り」
ぶわっとした風が体の前に滑り込んできて、閉じていた目を開くと見覚えのある長い髪と「滅」の文字を背負った背中が見えていた。
「君、大丈夫?」
彼が刀を鞘に納めながら問いかけて、ポロポロと目から涙を溢して泣く私。
「何で今泣くの?」なんて、どこか冷めたい視線とその口調だから最初は苦手に思ってた。
けれど、素早く抱き抱えてくれた腕は力強くてすごく安心した。
これが私と無一郎くんの初めましてなんだ。
この時も。
びしょ濡れで動けない私を抱えてくれていた時も。
次の日に慌てて蝶屋敷へ運んでくれた時も。
パッと見た印象の細い体からは想像できないぐらいの力で私を抱えて走ってくれた。
私は…
無一郎くんのこと………
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作者名:月見 | 作成日時:2020年10月11日 5時