75.可能性の話 ページ26
「いらしてたんですか」
夕方、任務前に蝶屋敷へ寄ると後ろから声をかけられた。
「胡蝶さん」
振り向けば見知った顔が近づいて来て隣に並ぶのを見届けてから視線を戻す。
Aが庭を歩いていた。
寝込んでしまっていたのを最後に長期任務となったので、暫く蝶屋敷に来れなかったから、歩いている姿に驚いた。
それでもまだ足元がおぼつかないのか、傍には小さな女の子が付き添っている。
「Aさん、頑張っていますよ。早く治したいと仰っていたので、今は訓練してもらっています」
「そうですか」
聞いてもいないのに胡蝶さんがAの事をぺらぺらと教えてくれる。
「Aさんにかけられた血鬼術、強いものなのか日に当たっても治りが遅いんですよ。元々記憶喪失だったから、それも関係しているのかもしれませんが…」
少し回りくどい言い方に何となく察する。
「まだ、鬼がいると言いたいんですか?」
「可能性の話です」
「…隣町に何度か行きました。もう若い娘が消えたという話は出ていません。隠に鬼の棲みかだったと思われる洞窟に入ってもらったら、まだ生きている人が数名いたようで。全員、記憶もしっかりしていて、栄養失調と脱水症状以外は何もなかったそうです」
「…そうですか。では血鬼術を使われたのはAさんだけなんですね」
「恐らく」
お互い暫く黙ってAの姿を見ていた。
彼女が転んでしまいそうになる度に足が出そうになる。
「そんなに心配ならこんな所で見守ってないで、傍に行けばいいじゃないですか」
胡蝶さんはそれに気が付いたらしく、笑いかけてくる。
でも………
「この後また直ぐ任務なので。それに僕には………」
「会う資格がない、ですか?」
驚いて胡蝶さんを振り向くと、切なそうに微笑んでいた。
「Aさんが言っていましたよ『無一郎くんがどうしてあんなこと言ったのか、知りたい』と。早く直したくて始めた今の訓練も、貴方との約束のためみたいですよ」
「僕との約束…」
『だから元気になったら、約束通り…作ってよ』
ふろふき大根………あれのことか。
「はい?…残念ですけど今晩の蝶屋敷は肉じゃがですよ??」
声に出していたようで、胡蝶さんが目をぱちぱちさせていた。
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作者名:月見 | 作成日時:2020年10月11日 5時