66.特別 ページ17
しのぶさんによると、私はどうやら記憶喪失というものになったらしい。
そして体が首から上までしか動かないということもあり、こちらの屋敷で面倒を見てくださるそうだ。
「とにかく日光を沢山浴びましょう」
と言われ、昼間から日差しの良い縁側がある部屋へ連れられた。
けれど、ここの3日間は雨や曇り空ばかりで良い天気には恵まれなかった。
そんな私はとにかく眠くて。
気が付くと一日の大半は眠って過ごしている。
起きていても呼び掛けられるまでぼーっとしていることも多いようで、よくしのぶさんが「Aさん、もしもーし、起きてますかー?」なんて目の前で手を振っている。
薬も寝たきりでは誤飲すると良くないから、と点滴を打たれていた。
「Aさん、昨日も無一郎くん来てましたよ」
しのぶさんが私の体を診てくれている時に教えてくれた。
相変わらずまだ首までしか動かないので、全てされるがまま私は話を聞いた。
「そうですか…」
「起こすと悪いからって、暫くしたら帰っちゃいましたけど」
「…。」
聞くところによると、彼は毎日来てくれているみたいだ。
「しのぶさん」
「何でしょう」
「無一郎くんってどんな方ですか?」
聞けば彼女が目を細める。
「そうですねぇ」
何か考えているのか、すぐに答えてくれないしのぶさん。
「彼もAさんと同じで記憶をなくされている方です。ある日を境にして昔の事は覚えていらっしゃいません。最近のこともすぐに忘れてしまわれる傾向にあります」
「そうなんですか?」
「はい」
「じゃあ、彼がここへ来なくなったら、その時は私の事は忘れてしまわれたってことになるんですね…」
「任務もあるので、一概にそうとは言えませんが」
もしそうなったらあの日の夜、悲しそうにしていた理由聞がけなくなる。
助けてもらったお礼も、運んでくれたお礼もまだ出来てないのに。
「しのぶさん!私、無一郎くんが私のことを覚えている間に会ってお礼が言いたいです。話がしたいです」
「Aさん、貴女のそう言うところは1度目の時と変わりませんね」
「えっ?」
しのぶさんの言わんとしていることが良く分からなくて首を傾げる。
「心配しなくても、彼は貴女のこと忘れたりしないと思いますよ」
「本当ですか!」
「Aさんは彼にとってもう特別な存在ですから。Aさんにとってそうであるように」
「え?」
しのぶさんが最後に言った言葉の意味が私には良く分からなかった。
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作者名:月見 | 作成日時:2020年10月11日 5時