10.尋ね人の正体 ページ10
「ごめんくださーい」
御屋敷の門をくぐった私は玄関で声をかけた。
「すみませーん!どなたかいらっしゃいませんか?」
けれど誰も出てこない。
どれだけ待っても辺りはシーンっと静まり返っていて、返事が来ることはなかった。
何で?昨日しのぶさん文を出してくれたんだよね?何で誰もいないの!?
ただでさえどんな人か分からないまま訪ねて来たために心細い。
もう帰ってしまおうか…と考えたけれど、せっかくここまで来たのに簡単に引き下がる訳にもいかない。
敷地内に誰かいないかと考えて裏に回る。
ここの御屋敷の庭は立派な竹が生えていた。
蝶屋敷は“蝶”と付くだけあって、庭に蝶が飛んでいたりしたから、ここは竹屋敷?
なんてくだらない事を考えていると人影を見つけた。
「あのっ!すみませーん!!」
やっと屋敷の人が見つかったのが嬉しくてブンブン手を振る。
「うるさいな…誰?」
振り返った人物を見て私は動きを止めた。
「とっ、時透、無一郎…さん?」
「…。」
ってことは、記憶がない柱って霞柱!?
「あっ、あの…そのっ!」
確かに、お礼がしたいとは思っていたけれど、今日訪ねる相手が時透さんだとは思っていなくてまだ心の準備が出来ていない。
『心配要りません。大丈夫!善は急げですよ』
そう言ってにっこりしていたしのぶさんを思い出す。
“大丈夫”ってそう言うことだったの!?
そうやって、あわあわと慌てる私をよそに彼が一言呟いた。
「君、誰だっけ?」
「へ…?」
うーんと首をかしげて考えている彼。
いや、確かにあの時は夜で暗かったけれど、もう忘れられちゃった?
そう言えば、しのぶさんが忘れっぽい人だと言っていたっけ…
「この間、森の中で助けて頂いたAです。その節はありがとうございました!」
挨拶も兼ねて軽く自己紹介をした私はペコリと頭を下げた。
「ふぅん」と声が聞こえて顔を上げる。
目が合うと「じゃあ」とスタスタ歩いてどこかへ行ってしまう。
「えっ!?ちょ、ちょっと!」
慌ててその手を掴む。
「何?まだ何かあるの?」
その言葉に怯みそうになるけれど、簡単に帰るわけには行かない。
「しのぶさんから文、届いてますよね?」
「文?………あぁ」
彼の中でやっと話が繋がったらしい。
ほっとしていると不機嫌な表情を向けられた。
「手」
「はい?」
「離して」
「あ、ごめんなさい」
言われてパッと離す。
「まぁ、上がりなよ」
そう言って歩きだした彼に着いて行った。
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作者名:月見 | 作成日時:2020年9月13日 22時