気の回し方 ページ13
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男の子が席を指してくれたのとほぼ同時に振り向いたのが沙苗だった。
「北人くん、私と席変わる?」
「いいよ、壱馬と話してるんでしょ?」
沙苗も私の隣に、と移動してくれようとしたけど男の子の言葉がそれを止める。
「えっと………」
状況が飲み込めずにいる私に、男の子は
「俺、壱馬の友達だから、大丈夫」
そう言って自然に椅子をひいてくれた。
「北人くん、王子様だねー……」
「………そんなんじゃないって」
その自然な動作に沙苗が感心すると、男の子は怪訝さと照れが入り交じったようにそっぽを向いた。
そのやりとりをみて
『仲良しの―――が王子様キャラって騒がれてる』
ふと、先週の沙苗の言葉を思い出す。
この男の子がその、“王子様” なんだろうか。
「……じゃ、失礼します」
「はは、どうぞどうぞ」
せっかく楽しく話してたであろう2人を邪魔したくなくて、男の子の言葉に素直に従う。
きっとこの男の子も、その事を考えて椅子をひいてくれたんだろう。
・
・
・
私が席について数秒、川村くんが小走りで戻ってくる。
隣に並んだ私と赤髪の男の子を見て、川村くんはハっとして言う。
「悪い、俺がここ座ってたから……」
「あ、いいよいいよ!ここ座るし」
席を譲ろうとする川村くんに気を遣わせないように、慌てて教科書を机の上に出した。
移動しなくていいよ、の意味で。
「え…………」
「川村くん、沙苗と話してたみたいだし」
私がそう言うと、川村くんは考える素振りをして
「…………そ、分かった」
どこか納得していないような表情で、いつもだったら私の定位置だった席に座る。
「…………?」
あれ、私もこの男の子みたいに精一杯気を回したつもりだったんだけどな。
何故川村くんが不服そうな顔をするのかは分からなかったけど
「壱馬くん、さっきの続き聞かせてよ」
やっぱり沙苗と話していた途中だったみたいで、後ろに座って良かったと思った。
今日私が来る前に何があったかは分からないけど、沙苗は前から川村くんと仲良くなりたそうにしていたし。
うんうん、と1人で納得する私を、気づけば隣の男の子が頬杖をつきながらジっと見つめていた。
「あの………?」
「 “川村くん” ねぇ…………」
「え?」
男の子の声はとても小さくて聞き取れなかったけど、なんでもないよと微笑んで体ごとこっちを向いた。
「俺、吉野北人っていいます」
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しおり(プロフ) - このお話とってもすきです!続きも楽しみにしています! (2020年2月9日 20時) (レス) id: f2d61f7afd (このIDを非表示/違反報告)
kino.(プロフ) - さくさん» コメントありがとうございます(><)!そんな風に受け取っていただけて嬉しいです( ; ; )いつものろのろとお待たせしてしまって申し訳ないのですが、これからも見ていただけますと嬉しいです( ; ; ) (2020年1月5日 14時) (レス) id: ee69af6f8c (このIDを非表示/違反報告)
さく(プロフ) - はじめまして!壱馬くんと主人公ちゃんのやり取りが可愛すぎます!この作品大好きです!更新大変だと思いますが、陰ながら応援しています!失礼しました! (2020年1月5日 8時) (レス) id: 67f82f89a4 (このIDを非表示/違反報告)
kino.(プロフ) - も。さん» コメントありがとうございます!そんなふうに言っていただけて凄く嬉しいです( ; ; )とてもお待たせしてしまうと思いますが、更新頑張りますのでお時間あります時に覗きにきていただけると幸いです。温かいお言葉にお応えできるように頑張ります(^^) (2020年1月5日 0時) (レス) id: ee69af6f8c (このIDを非表示/違反報告)
も。(プロフ) - 初めまして!大学生の設定ですがアーティスト本人の性格がとんでもなくそのまま出ていて、大学生らしい展開にいつも悶えながら読ませてもらっています!無理せずにご自身のペースで更新頑張ってください!本当に大好きなお話で沢山読み返させて頂きます! (2020年1月4日 22時) (レス) id: db66c21382 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:kino. | 作成日時:2019年12月13日 21時