第10話 ページ23
「向坂さん」
今日も死者ゼロ。良かった、と晴れやかな気持ちで片付けをしていたところに呼ばれた声。
振り返るとそこにいたのはいつもお世話になっているレスキュー隊の隊長の千住さん。
「千住さん？」
こうして出動時に千住さんが話し掛けてくるのは実は初めてで、どうしたんだろうかと首を傾げた。
「お前、前、暮方っていう名字じゃなかったか？」
その言葉に浮かんだ笑みは諦めか喜びか自分でも分からない。
「暮方Aくん、だろ？」
「参ったな。もう忘れていると思ってました」
「やっぱり、お前はあの子か」
まるで堪えるように顔を歪める千住さんの胸にある感情は一体何なのだろうか。
驚き？喜び？悲しみ？
「千住さん、何度もお見舞いに来てくれましたよね」
絵本、今でもありますよ。
そう言った俺に浮かべた表情は更に複雑な色。でも、濃く浮かぶのは悲壮感。
だから敢えて言わなかった。
MERとして千住さんと初めて会った時に俺は既に気付いていた。あの時の人だ、と。
だけどそれで千住さんが思い返すのは懐かしさとか久しぶりに会った喜びとかではないと分かっていたから、今みたいな顔をさせてしまうと分かっていたから、言わなかった。
それは自分にとっても。
千住さんが俺を思い出してしまうという事は、俺が過去と真正面から向き合わなければならなくなってしまうかもしれないから、怖かった。
でも、もう潮時なのかもな…。
「あの時はありがとうございました」
「医者になってたのか」
「はい」
「ずっと、どうしているのかって気になっていたんだ」
「色々ありましたけど、今こうして何とかやってます」
「そうか」
そう言って浮かべた笑みは優しくて、あぁ変わってないなと懐かしさで胸がいっぱいになる。
あの時も、朦朧とした意識の中で見た笑顔はこんな感じだった。
生きてる。
大丈夫だ。
助かったぞ。
その言葉にどれ程の希望をみただろうか。どれ程眩く感じただろうか。
どれ程あなたに感謝をしただろうか。
それでも、思い返すのが怖くて、その存在にすら蓋をしていた臆病者だけれど。
俺の事を忘れていて欲しいとすら思った程。
「まさかMERとはな」
「まあ、あの車は苦手ですけどね」
「それは…」
「どうしても思い出すんです。あの事故の時の事を」
※
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はる(プロフ) - このお話大好きなのですが、もう更新されませんよね‥もっと読みたかったです (6月15日 22時) (
レス) @page29 id: 6c02acd669 (このIDを非表示/違反報告)
ウサダ - かりんさん» 感想ありがとうございます！キュンキュンしていただけたらなんて嬉しい限りです！主人公も好きとのお言葉感謝感激です！ (2021年8月25日 12時) (レス) id: cb9932fe74 (このIDを非表示/違反報告)
かりん(プロフ) - はじめまして!いつもこの作品楽しく見させていだいてます。音羽先生と喜多見チーフがかっこよくてキュンキュンしながら、見てます（笑） 男主くんのキャラ大好きです！更新楽しみにしてます！頑張ってください(*^_^*) (2021年8月23日 5時) (レス) id: b0e233bdb7 (このIDを非表示/違反報告)
ウサダ - mikanさん» いえいえ、コメントありがとうございます。 (2021年8月16日 8時) (レス) id: cb9932fe74 (このIDを非表示/違反報告)
ウサダ - 澪響さん» ありがとうございます！これからも読んでいただけるように頑張ります！ (2021年8月16日 8時) (レス) id: cb9932fe74 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ウサダ x他1人 | 作成日時：2021年7月20日 11時
