【夏目友人帳】拝啓、愛してます。 (ページ10)

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　「塔子さんは、違うのか？」

　「塔子さんって、俺の目の前の……？」

　「ああ。藍の話を聞いた時から思っていたんだ。何だかその人、塔子さんに似ている気がしてさ」

　俺の問いに藍は暫く眉を顰め、塔子さんをジッと見詰めてから小さく首を振った。一言、「違う」と言って。
　
　「貴方、藍君って言うのね。貴志君とは学校でのお友達かしら」

　早速痛いところを突かれて戸惑う藍の代わりに俺が口早に答える。

　「いや、藍は学校の友達じゃなくて、名取さんと一緒に行った呉服店の息子なんです。着物のことで一寸意気投合してそれから仲良くしてます」

　うん、苦しいな。色々と……。

　「そうなの？貴志君が着物に興味があったなんて意外だけど、でも良かったわ。貴志君ってちょっと受け身なところがあるでしょう？いつも同じお友達を連れてきていていたから他に居ないんじゃないかって少し心配していたんだけど、でも、本当に良かったわぁ」

　屈託のない笑顔で恥ずかしいことを赤裸々と語る塔子さんの言葉を聞いて、藍は遠慮がちに笑った。キッと睨むと少し肩をふる合わせ、縮こまった。

　「藍君、これからも貴志君を宜しくね」

　「はい。こちらこそお世話になってます」

　「ふふふ、礼儀正しい子ねぇ。ねぇ、藍君。一寸変なことを訊くけど、いいかしら」

　いきなり畏まって言う塔子さんの目に圧倒され、藍は不思議そうに返事をした。それを合図に塔子さんは「きっと違うとは思うんだけど」と前置きして、「藍君のおじい様に、藍君と同じ金色の髪色をした、丁度貴方が着ているお着物と同じものを着ていた方は居ない？」と訊いた。

　「いえね、別に大事なことではないのだけど、藍君を見ていると昔一度だけ会ったことのある、藍色のハンカチを貸した男の人と似ているなって。丁度、私が中学生ぐらいの頃だったかしら。とても綺麗な顔と声をしていてね、それはもう素敵な人だったわ」

　藍が探していたのは、塔子さんだったんだ。しかも塔子さんはそのことを覚えていて……！

　「如何かしら。やっぱり、居ないわよね」と少し悲しそうに笑う塔子さんに藍はどんな顔をするのかと、どんな答えをするのかと今すぐにでも藍の肩を掴んで嬉しさに浸りたい気持ちを押し殺し、藍が口を開くのを待った。
　暫くして、藍は震えた声で言った。

　「……はい。居ます。まだ、元気にしています。よく、その話をしていました。とても可愛らしい人だったと何度も何度も色んな人に嬉しそうに話していました」
　