【夏目友人帳】拝啓、愛してます。 (ページ11)

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　「あら、そうなの？そこまで言われるとちょっと恥ずかしいわね」

　「あの……」

　頬を紅色に染めて目を細める塔子さんとは裏腹に、藍は下を向いて着物を固く握っていた。

　「俺、もうそろそろ行きますね。時間も時間ですし、家まで遠いので」

　そう言うと、止める塔子さんの声も聞かず逃げるように外へ出てしまった。俺とニャンコ先生も急いで後を追う。

　「藍！一体如何したんだ藍！」

　俺の叫び声も虚しく藍は走る速度を落とすどころかぐんぐん上げていき、俺と藍との距離は大きく開いていく。二日に渡った初恋の人探しといきなり走ったことで俺の肺はもう白旗を揚げる。藍も疲れたのか次第に走るペースは落ち、はぁはぁと肩を揺らして立ち止まった。

　「藍……！」

　これはチャンスだと思い無我夢中で藍に走り寄ると、「待て夏目！」と横っ腹にニャンコ先生も頭突きが炸裂し、止められた。

　「何するんだ先生！早くしないと藍が……」

　「よく見ろ夏目」

　鋭い声で言葉を制され、渋々藍の方を見た。そこには最初に会った時のあの希望に満ち溢れた楽しそうな藍の笑顔はなく、隣町でのあの禍々しい粒子を纏って不気味な笑顔浮かべている藍が居た。

　「如何いうことなんだ、先生」

　「ふぅむ……恐らく力の制御ができなくなったのと、愛する初恋の人のことを忘れていたことが問題だろうな。藍が話していたが、昔は社を持っていてその膨大な力を無駄に放出していたが、塔子探しの旅に出てその力の使いどころを無くしてしまい、しかも塔子のことを忘れていたショックで、というところだろうな」

　「そんな……」

　如何したらいいんだ？俺に何が出来る？

　「夏目、可笑しなことを考えるな。今の藍は藍ではない。もう後戻りは出来ぬだろうな」

　「そんな！」

　俺とニャンコ先生が口論していると、藍が此方に向かって尋常じゃないスピードで襲ってきた。それに素早く反応した先生が俺を突き飛ばし、藍の目の前に立ちはだかる。

　「先生！」

　「いいか夏目、此奴はもうあの藍ではない！分かっているな！」

　そう叫ぶと先生の額が青い閃光を放ち、藍はこの世の者とは思えない悲鳴を挙げ半透明な粒子となって捩れて消えた。消える瞬間、藍の面は外れその美しい黄金色の短髪を流し精密に造られたフランス人形のような顔で薄く笑った。