[短編集] My Darling

_ ページ44

　
　
　
　
　
「……ゆずる、ごめんね」

「何が？」

「何がって、電話」

「別にええよ。仕事やし、しゃあないやん」

　言ってることは、いつもと変わらない。

　なのにどうして、目を合わせてもくれないの？

　ゆずるは何を言うときも、ちゃんとわたしの方を見てくれて。

　だから、その言葉に、ごまかしや嘘がないって、信じられるのに。

「怒ってるなら、そう言って」

「怒ってない」

「嘘つかないで」

「ついてへん」

「じゃあ、こっち見てよ……」

　溢れそうになった涙を隠そうと、俯いた。

　今わたしが泣くのは違うって、わかってる。

　でも拒絶されたままじゃ、話もできない。

　ぎゅっと目を瞑って、必死で涙を堪えた。
　
　
　
　
　
　
　
「……ほんまにお前、何やねん」

　しばらくして頭上から降ってきたのは、文句。
　
　
　
　
「ごめんなさ、っ」

　謝った途端に、顎を掴まれて唇を塞がれた。

　荒々しく舌を絡め取られて、息ができなくなる。

　咥内を探るような動きに、ついていくことなんかできなくて。

　口の端を唾液が伝う。

「ん、は、ゆず、、」

「だまって」

　僅かな合間に言葉を継ごうとすれば、制止されて。

　わたしの口元を長い指が拭って、もう一回唇が重なる。

　掻き乱す熱い舌は、何を求めてるのかわからない。

　それでも触れあえてることが嬉しくて、必死でそれを受け入れ続けた。

　唇が離れて息をついた瞬間、ぐらりと視界が揺れた。

　押し倒されて、両手は固く押さえつけられる。
　
　
　
　

「……仕事て、わかってんねん」

　絞り出すような声。

「ほんでも、相手、男やろ」

「……え、そうだけど……」

　戸惑いながらも頷くと、目つきが変わった。

「俺とおんのに、他の奴に取られてんの嫌やねん」
　
「取られてなんか、」

「……それもわかってる」

　視界いっぱいに広がるゆずるの顔。

　人懐っこいいつもの雰囲気が全然、ない。

「わかってんのに、止められへん」

　わたしを押さえつけたまま、その顔は切なく歪んだ。
　
　
　
　

_→←Jealous Beast / Y.Kawai

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す