傘 / Lily ページ39
窓ガラスを叩く雨音に、描きかけの絵から意識が離れた。
A、来るって言うてたっけ。
放ってたスマホを確認すると、『これから向かうね』というメッセージから、もうすぐ1時間。
職場から出てすぐ送ってきたんだったら、もう最寄駅に着く。
窓を開けてみると、結構な本降り。
傘、持ってるんかな。
Aは滅多なことじゃタクシーには乗らんし、傘がなければきっとここまで走って来る。
その光景を想像したら居ても立ってもいられなくて。
鍵とスマホだけ持って、なるべく大きい傘をさして外へ出た。
駅までは徒歩7分。
走ってくるAとすれ違わないことを祈りながら、気づけば小走りになっていた。
最後の角を曲がって、見えた駅の入口。
「ーーA！」
その姿を見つけた瞬間、思ったより大きい声が出た。
「……え？ 将企くん？」
びっくりした顔でこっちを見てる。
「Aのことやから、走って帰るかもなって」
「それで来てくれたの？ ありがとう」
まっすぐにそんなこと言われたら。
結局俺が走る羽目になってるけどとか、文句言いたい気持ちが失せてしまう。
「冷えるし、早よ帰ろ」
頷いたAを傘に入れれば。
自分のスペースは、半分になる。
それを狭いじゃなくて嬉しいと思ってる俺、いよいよやばい。
「将企くんに迎えに来てもらえるなら、毎日雨でもいいなー」
「毎日は来れんよ」
苦笑すると、Aも同じように笑った。
最近は顔バレすることが多くなってきて。
並んで歩くのなんか、随分久しぶりな気がする。
衝動的に動くのも、たまには悪くない。
「……A？」
「ん？」
こっちを見上げた顔と、目が合って。
傘を少しだけ下げて、隠れるようにその唇にキスを落とす。
目を開ければ驚いた顔がすぐ前にあった。
「な、え、外だよ！？」
「傘で見えてないって」
「もう……」
俯いて、顔を覆った。
嫌やったんかなって、ちょっと後悔しかけたとき。
「不意打ちは、やめて」
可愛らしい文句に、つい笑いが漏れる。
「じゃあちゃんとするから、もう一回」
俺が自分勝手な要求を口にすれば。
Aはしょうがないな、って呆れて笑った。
少しだけ腕を引き寄せて、傘を傾ける。
隠せているのかいないのか、曖昧な空間で。
今日しかできない、特別なキスを。
fin.
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理架(プロフ) - 美里さん» ありがとうございます(^-^) あの2人についてはとにかく学生らしさを詰め込ませてもらってます(笑) 予定は未定ですがまた機会があればチャレンジしたいですね〜。ほっこりできるお話も書いていきますので、またよろしくお願いします！ (2020年11月21日 7時) (
レス) id: c81664a4ee (このIDを非表示/違反報告)
美里 - 一番は勿論リクで描いて頂いた作品です。ホントに好きですー。あの二人の恋路を応援したい気持ち(笑)少しずつ距離が近づいていく感じが、理架さん凄い！って思います。良かったらまた描いて下さいっ(スルーしてもいいです笑)私は多分ほっこり系が好きなんだと思います。 (2020年11月20日 17時) (レス) id: acf62d2dcf (このIDを非表示/違反報告)
理架(プロフ) - メイさん» ありがとうございます！人恋しい季節になってきますし、より一層キュンをお届けできるようにがんばります！そしてヤキモチな川西さん、最近書いてなかったですね。続編に移行したら書いてみたいと思います(^-^) (2020年11月20日 10時) (レス) id: c81664a4ee (このIDを非表示/違反報告)
メイ(プロフ) - 今回もステキなお話でした。毎回まるで自分がこのお話の主人公なのではないかと思う位に引き込まれキュンとします！これからもお話楽しみにしています！やはり推しの川西さんのお話で、ヤキモチ妬く川西さんとか読んでみたいです。 (2020年11月20日 0時) (レス) id: 24f8e2afc7 (このIDを非表示/違反報告)
理架(プロフ) - 美里さん» ありがとうございますー！穏やかな濱家さん書きやすくて楽しいです。共通テーマシリーズはもう何回かやりたいと思ってるのでまたよろしくお願いします(^-^) (2020年11月4日 8時) (レス) id: c81664a4ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：理架 | 作成日時：2020年9月17日 22時
