[短編集] My Darling

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「でも」
　
「ごめんね、……久しぶりなんだから、笑っておかえりって、言いたかった、のに」

　どんどん溢れる涙を、自分で強引に拭う。

　帰ってきたときから顔固いな、とは思ってたけど。

　さっきまでこっちを見ようともしなかったのは、寂しさを必死で隠して笑おうとしてたんやって。

　そんなことにも気付いてやれへん自分が、ちょっと情けない。

　目を擦る手を止めて、替わりに舐め取った。

「無理して笑わんでええよ」

「っ、だって、」

「寂しいときは寂しいって、言うて」

「言っても、帰って来れないでしょ……」

「それはそうやけど、知らんのは嫌やねん」

　Aのことは、何でも知りたい。

　きっと何を知っても、全部可愛いとしか感じない。

　今もう、そんな自信がある。

　こんなに泣いてても、めんどくさいとかやめてほしいって、思ってないんやから。

「……わがままって、思わない？」

「思わない」

「隆一が思ってるより、いっぱい言うかもよ？」

「ええよ、何でも言うて」

　頷いたら、やっと、今日初めて笑った。

　泣き顔も悪くないんやけど。

　やっぱり、笑てる方がええかな。

「A」

　名前を呼べば、見上げてくる視線。

　ゆっくり体勢を変えて、ちゃんと向かい合って。

　首に手が回されて、唇を重ねる。

　もっと甘いと思ってた10日ぶりのキスは、涙の味がして。

　早くそれを消し去ってやりたいと、心底思った。

　角度を変えて何度も何度も唇を奪えば、合間に漏れる息は悩ましげに色を含んでいく。

「とりあえず、朝まで抱き倒してええかな」

　回された腕から力が抜け始める頃合いを見計らって、言ってみる。

「……もちろん、いいよ」

　充分すぎる承諾をもらって、その首筋に貪りついた。


　
　
　

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