[短編集] My Darling

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　……明日？

　何時でも、来ていいよってこと？

　浮かんでしまった嫌な想像は、消えてくれない。

　その人はエレベーターの方に向かっていって、見えなくなった。

　ドアの前に立ったけど、インターホンを押す気になれない。
　
　……やっぱり、帰ろうかな。

　でも今更行けないって言うのも急すぎるし、何て言い訳すればいいんだろう。

　ぐずぐず考えてたら、タイミング悪く電話が鳴る。

　もちろん賢志郎からだった。

　連絡しようかと思って画面に触れていた指が、その着信を繋いでしまう。

『A？ 何かあった？』

　声を聞いたら、やっぱり会いたくなる。

「ううん、大丈夫。もう着くから」

『……もう着くっていうか、』

　そこで急にドアが開いた。

「『おるやん』」

　電話と二重で声がして、思わず笑ってしまった。
　
　
　
　
　
　
　
　
　中に入ると、いつもと変わらない部屋。

　雑然としてる場所と、妙に片づいてる場所が混ざってる。

　すっかり定位置になったソファに座った。

　賢志郎は缶ビールを持ってくると、私にひとつ渡して隣に座った。

　ついてたテレビをぼんやり見ながら、ビールを流し込む。

　びっくりするぐらい、賢志郎はいつも通りで。

　わざわざ雰囲気を悪くするかもしれないことを、聞く必要もないかなって思えてくる。

　私が、何も見なかったことにすればいい。

　あの人が誰でも、私には関係ないんだから。

「……疲れてる？」

　その声にはっとする。

　いつもはお昼のお弁当がちょっと豪華だったとか、些細なことを話すのに。

　気付いたら黙っちゃってた。

「忙しいのに、無理して来たんちゃう？」

「大丈夫だから来たんだよ」

　無理は、してない。

　だいたいどう考えても賢志郎の方が忙しいし。

　多忙な合間に会ってくれてるこの時間を大事にしなきゃいけない。

　頭ではわかってる。

「……それなら、ほんまのこと言うて」

　缶をテーブルに置いて、まっすぐに私を見る。

「……どういう意味？」
　
　
　
　

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