[短編集] My Darling

甘いもの / R.Hamaie ページ21

　
　
　
　
　
「Aさーん、お土産」

　隆一は帰ってくるなり、そう言ってきれいな箱を渡してくれた。

「わー、ありがとう！ 何？」

「たぶんチョコやな」

　独特のイントネーションで言って、荷物を置きに部屋に入った。

　ソファに座って、箱を開けてみる。

「おいしそう……」

　つやつやと光る、高そうなチョコレートが5個。

「お、うまそうやん」

　着替えを終えた隆一が隣に座った。

「食べていい？」

「もちろん」

　私が手を伸ばすより早く、隣から大きい手がチョコをひとつ摘んだ。

「はい、どーぞ」

　それはわたしの口元に差し出される。

「自分で食べれるけど……」

「早よ食べんと、溶けてまうで？」

　仕方なく、少しだけ口を開ける。

　指ごと口に押し込まれた。

「ん、っ、」

　驚いたけど、何とか指を噛まないようにして。

　チョコを右の頬側におさめた。

　抜かれた指の先には少しだけチョコがついていて、隆一は何の躊躇いもなくそれを舐めた。

「……うまいやん」

　確かに甘すぎなくて、おいしい。

　少し柔らかくなった外側を噛んでみると、とろりとした何かが出てきた。

「あ、お酒入ってる」

　ウイスキーっぽい深い香りが口に広がる。

「ほんま？」

　言うが早いか、後頭部を押さえられて唇が重なる。

　挿し込まれた舌に容赦なく咥内を探られて、舐めとられて。

　唇が離れると、隆一は妖しく笑った。

「……まだあるんだから、食べればいいのに」

「1個全部はいらんねん」

「もう、狡いなあ」

　隆一はいつもそう。

　狡いというか、要領がいいというか。

「それより、その気になった？」

「えっ？」

　聞き返すと、視界が天井と隆一だけになる。
　
「チョコより、A食いたいねんけど」

「……美味しいか、わかんないよ？」

　優しく私を見下ろす目元に、手を伸ばす。

　眼鏡を外すと、にっこり笑った。

「Aはどこ食うてもうまいで」

「それ褒めてる？」

「むちゃくちゃ褒めてる」

　言いながら、耳を噛まれて。

　チョコより甘い痺れが、全身を駆ける。

「食べるなら、全部食べてね」

　眼鏡を壊さないように持ったまま、隆一の首に手を回した。
　
「いただきまーす」

　グルメロケみたいな軽妙なトーンを最後に。

　人のいい笑顔は、消えた。
　
　
　
fin.
　
　
　

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