痕跡 02 ページ19
帰ると干していたシャツを取り込んで、アイロンをかける。できるだけ丁寧に、これを着てする漫才がみんなを笑顔にしますように、と祈りを込めて。
終わったら賢志郎の部屋に掛けて、夕飯もそこそこに、買ってきた本を開く。
途中でお風呂に入って、更に読み進めるうち、夜が更けていく。
「Aー?」
遠くから、賢志郎の声がする。
夢かな。
だって今日は帰れないかもって、言ってたし。
「おーいAー」
身体を揺すられる。
あれ、夢じゃなさそう。
「賢志郎……?」
重い瞼を何とか開ける。
ソファの前に膝をついた賢志郎と、目が合う。
帰ってきたんだ。
「おかえり……」
「ただいま。こんなとこでうたた寝してたら、風邪引くで?」
ふにゃっと笑って、頭を撫でてくれる。
その手が気持ちよくて、また目を閉じてしまう。
「あかんて、A。ちゃんと部屋行き」
「うん……」
返事はしたけど、身体が重い。
「もー、しゃあないな。ほら、手伸ばして」
「え?」
言われた通りにすると、賢志郎の首筋に手が触れた。
「しっかり掴まっといてな」
次の瞬間、身体が持ち上がる。
「わっ……」
びっくりして目を開けると、顔がすぐ横にあって。
抱き上げられてる、ってやっとわかった。
「ベッド行くで?」
そのまま私の部屋に入って、私をベッドに寝かせて、しっかり布団をかけてくれた。
「あったかくして寝るんやで」
そうしてまた頭を撫でられる。
「ありがと。……賢志郎も、早く寝てね」
「ん、Aが寝たら部屋行くから」
「だめ、ちゃんと寝ないと」
「たまには、甘やかさして?」
縋るような視線でそんなこと言われたら、甘やかされないわけにはいかない。
「……じゃあ、もうちょっとそこにいて」
「うん。あと何してほしい?」
「……キスして。一回でいいから」
「一回でええの?」
頭を撫でていた手が頬に移動して、唇が重なる。
数日ぶりのその感触に酔いしれる。
唇が離れると、
「ごめん、もっかいしてええ?」
そんな可愛いことを言うから、頷いた。
もう一回だけキスをして、私が眠るまで手を握っててもらった。
翌朝、起きたらもう賢志郎はいなくて。
でも昨日予想した通りのシャツが、部屋から消えていた。
そんな些細な彼の痕跡が、今日の私を支えてくれる。
今日は何しようかな。
fin.
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理架(プロフ) - ハンナさん» いつもありがとうございます!甘いだけで終わらない、白を着ながらいつもどこかちょっと黒い、みたいなイメージで書いてます(笑)これからもわーってなってもらえるようなお話を書いていけるよう頑張ります(^ ^) (2020年6月19日 21時) (レス) id: c81664a4ee (このIDを非表示/違反報告)
理架(プロフ) - ますみさん» ありがとうございます!白シャツの話は書かねば、と思っていたので第一弾のトリに持ってきました。第二弾もよろしくお願いしまーす! (2020年6月19日 21時) (レス) id: c81664a4ee (このIDを非表示/違反報告)
ハンナ(プロフ) - ひゃー素晴らしい…甘いようで賢志郎さんらしいし…いつもうわー…って読ませていただいています (2020年6月19日 18時) (レス) id: 9d1b7de85f (このIDを非表示/違反報告)
ますみ(プロフ) - 読みました。今回もキュンキュンしました。川西さんといえばまぁ白シャツですよね。あ、後続編おめでとうございます。むっちゃ嬉しいです。第2弾も読ませ頂きます。愛読します。 (2020年6月19日 17時) (レス) id: cc9c552fc9 (このIDを非表示/違反報告)
理架(プロフ) - ますみさん» 早速読んでいただいて、ありがとうございます!最近の番組事情を少しだけ反映してみました。cookpadliveはどうしても本調子でないように見えて、思わずこちらに使ってしまいました。切なさを感じていただけてよかったです。ありがとうございました! (2020年6月17日 21時) (レス) id: c81664a4ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:理架 | 作成日時:2020年6月2日 16時