riverside days

kiss in the dark 02 ページ16

　
　
　
　車から降りると、潮の匂いがした。

「あー、海来るの久しぶりー」

「A、あれ見て」

　賢志郎の指す方を見ると、綺麗にライトアップされた観覧車。

「うわ、すごーい」

「まずあっち行ってみよか」

　はい、と手を差し出される。

　その手をぎゅっと握って、歩き出す。

　外で手を繋ぐのは、これが初めて。

　もっと言えば、賢志郎とデートするのも今日が初めて。

　レンタカーと夜の暗さに助けてもらって、今日の計画が実現した。

　観覧車の近くまで来ると、手を繋いだまましばらくその光を見ていた。

　幸せだけど、あんまり明るいと落ち着かないな。

　誰かに見られるんじゃない？ って心配になっちゃう。

「観覧車、乗りたい？」

「ううん。海、見たい」

「じゃあもうちょっと歩こか」

　また二人でしばらく歩く。

「A？」

「なに？」

「普通にしててええよ。そんな警戒せんでも、大丈夫やから」

「え、でも」

「いつものAがええんよ、俺も」

　困ったような笑顔を浮かべる。

　確かに、私が周り気にしてばっかりじゃ、楽しくない。

「じゃあ、せめて今だけ賢ちゃんって呼ぶ」

「なんの対策？」

「賢志郎、だとバレるかもしれないでしょ」

　そんなに効果ないかもしれないけど、何もしないよりはマシなはず。

「それはそれで新鮮やなー」

「咄嗟に呼べるかなあ」

「練習しとき」

「……賢ちゃん」

「何？」

「賢ちゃん？」

「Aがそう呼ぶのなんかおもろいわ」

　何でか楽しそうな賢志郎に、私も笑顔になった。
　
　
　
　

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