riverside days

西日のベランダ 02 ページ2

　目を開けると、くしゃっと笑ってくれる。


　仕事が終わって帰ってきて、セットが残ってる髪でそんなふうに笑われると、テレビに出てるときそのままで。


「和牛の川西さんが、うちにいる……」


「何やそれ」


「今度家でスーツも着て欲しい」


「それは、さすがにAの頼みでもあかんわ」


　駄目元で言ってみたけど、やっぱり駄目だった。


　商売道具であるスーツを、軽々しく家で着たりはしない。


　そんなこと、とっくにわかってる。


「やっぱり？」


「だめってわかってて言うたやろ？」


「あ、それもバレてた」


「Aの考えてること、だいたいわかんねん。さっきも、『温泉行かれへんけどここでビール飲んでたら幸せー』って思ってたやろ？」


「もう、私の心の声、まなみちゃんでやるのやめてー」


　40手前のおっさんから、突然可愛らしい女の子が出てきて笑ってしまう。


　スーツは着てくれないけど、たまにネタを会話に混ぜてくれる。


「『みずたくーん』」


「ほんとやめて、、まなみちゃん好きだけど、、、やめて、、、」


　笑いが止まらない。


　涙が出るほど笑ってたら、やっとまなみちゃんは帰ってくれた。


「Aってそんな笑うんやね」


「えー、私ってそんな冷血人間みたい？」


「ちゃうよ、そんな爆笑してるとこ、初めて見た」


　私、和牛のこと知ってから、随分笑ってるけどな。


「あ、そっか、いつもはテレビ見て笑ってるから」


「……ほんなら、次のルミネ来る？」


「え、いいの？」


　劇場には行ったことがなかった。


　仕事の場に、観客としてとはいえ、行ったらだめかなって思ってたから。


「俺らで笑ってるA、見たい」

　
「実際に見るの初めてだから、楽しみだな」


「惚れ直すで、たぶん」


「……そうかも」


　私が真面目に返したから、意外そうにこっちを見た。


　そしてまた私の大好きな笑顔になってくれて、刺すような西日の中、もう一度キスをした。

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