《GW限定》きのこのまかない短編集

1【ドラマチック / Sho.H】 ページ1

『ねぇ、紫耀。』



「ん〜？」



吐息のような掠れ声が、8畳ほどの部屋に響く。



どギツい色のカバーがかかったシングルベッドに、まるでクラブのように薄暗い照明。


飾り棚に並ぶのはハイブランドのサングラスと謎の動物フィギュア。





まるで部屋の主を体現したかのようなカオスな空間も、20年以上も通っているうちにいつしか当たり前の光景となってしまった。




シルクのシーツの上に逞しい肢体を投げ出している金髪にピアスの男は、れっきとした私の従兄弟だ。

生まれた時からマンションの隣同士に住み、幼稚園から高校まで同級生だった。




紫耀は勉強以外は何でもできた。



スポーツも
歌も
ダンスも


すべて抜群に上手い。


物覚えはいいし人当たりもいいし


趣味も色々あって、社交的で穏やか。


おまけにしっかりと8つに割れた腹筋とがっちりした腕、

そのマッチョな体の上に乗っかった奇跡の小顔と、その中でもっと奇跡を起こしてる国宝級の顔面。




もはや勉強なんかどうでもよくなるぐらい、紫耀はモテた。



学校1モテた。


おそらく地元全体でも1番モテた。


有名人だった。


何度もスカウトされて、何度も断っていた。




そんな紫耀の近くにいた私は最初は女子に疎まれるものの、「従姉妹」だということが浸透すれば風当たりは弱くなる。

所詮は血の繋がった親戚。
恋愛対象じゃないならセーフ。



みんなにそう思われて、「対象外」という名のお許しを頂いていた。



高校を卒業して私は進学、紫耀は就職と進路は分かれた。

それももう何年も前の話だけど、20代半ばとなった私たちは相変わらず2人とも実家暮らしだ。




なんとなく暇なときはどちらかの部屋へ行き、お菓子を食べたり音楽聴いたり。



お互いの親は共働きで生活が不規則だから、食事もだいたいが紫耀と一緒。



もう、ほとんど家族だ。





それなのにどうしても見慣れないのは




きっと、紫耀の顔が綺麗過ぎるのがいけないんだ。

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