Bittersweet 【ver.SHO】

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そのまま電車に乗り込み、流れる景色をぼんやりと眺める。


隣からは、すっかり慣れた甘ったるい香水の香り。




窓ガラスに映る紫耀は既にいつもの能天気なニコニコ顔に戻っていて

先ほどの凍てつくような視線の名残は、もうどこにも見当たらない。





…この猫っ被りが。





紫耀は基本的には明るくて活発だけど、実は家に帰ると物静かで大人しい。




派手な外見の割には、案外邪魔にはならないのだ。





明るいのが苦手らしく、彼はいつも薄暗い部屋にサングラスで過ごすので、私とは生活スタイルが合わない。




なので彼は基本的には、猫のように一人ロフトで過ごしている。





…なんでこんな厄介なのと一緒に住んでるんだろ。





つい漏れてしまった溜息に気付いた紫耀が、チラッとこちらを伺う。





紫「疲れたん？？
…どーせいっつも疲れて終わりなんやから、
合コンなんて行かんとまっすぐ帰って来ればええやん。」





先ほどとは打って変わって、子どものように口を尖らせながら横目に私の様子を伺っている。






1ヶ月ほど前。

真冬の夜に、何の連絡も無しにピンポンして来た彼は、「家の前に知らん女の子がおる…！！」と、怯えた様子でうちに駆け込んで来た。




『え？同じマンションの人なんじゃなくて？』




紫「おおおおおお俺んちのドアの前に座り込んどるんやもん！！服装も黒ずくめやし、なんや目も据わっててむっちゃ怖いわ！！！
コレ刺されるんちゃう！？って思って、ここまでダッシュで逃げて来たんよ…！！！」




ウチと紫耀の家は電車で1駅という近さで、徒歩でも全然行き来できる距離だ。




私の姉の夫の従兄弟…というめちゃくちゃ遠い親戚の紫耀とは、姉の結婚式で仲良くなった。





名古屋出身の彼は東京の大学進学にあたり、


「東京ちんぷんかんぷんやから、近所に知り合いがおってくれた方がええやん！」


と言って、やや強引に私の家の近所に引っ越して来た。





まぁそれは別にいいんだけど。




昔からギャグ漫画みたいに女の子にモテてた紫耀だけど、まさかストーカー被害に遭うなんて思ってもみなかった。





「ここで追い返して、もし本当に刺されたら笑い事じゃ済まない。」




慌てて匿ったものの、転がり込んできた紫耀の置き場所に悩んだ私は

仕方なく荷物を整理して、狭いロフトの上を譲り渡した。





で、気づけば1ヶ月。




彼は未だにうちのロフトに巣を作り、




自宅に帰ろうとしない。

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