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お蕎麦屋さんから出ると、雨は止んでいた。
2人で駅まで歩いたあと、「家まで送る」と言う優太の申し出を遠慮して1人で電車に乗り、トボトボと辿り着いた我が家。
そーっと中に入ると、ダイニングテーブルに空になったコンビニ弁当が置いてあった。
それを横目に2階へ上がり、ノックもしないで奥の個室を開ける。ガチャリ…と言うドアの音に驚いたのか、製図用紙に向かってシャープペンを走らせていた永瀬くんが、目をまん丸にして顔を上げた。
「…ぅおっ…！？！？帰ってたん！？！？
ちょ、確かに居候ではあるけど、さすがにノックはしてよ！！今は作業してたからええけど、着替えとかそのほかとか、色々あるやん、こっちもさぁ！！」
「そのほか、色々…？」
「わざわざそこ拾わんでもええやろ！！！
なんなん、着替えもせんといきなり入って来て！！俺のこと、雨の中置き去りにしたくせにさぁ！！」
いつもの調子でギャーギャー騒ぐ永瀬くんは、きっと今日も笑い話にしようとしてくれている。
本当は傷ついた心を隠して
弱い弱い、私のために。
「コンビニ弁当、食べたならちゃんと捨ててよね。」
「あー…そや。
軽く洗って捨てよ思って忘れてたわ。ごめーん。」
シャーッ、シャッ…と絶え間なく紡がれる、滑らかに線を引く音。軽い調子で受け答えしながらも、永瀬くんの視線は製図用紙に注がれたままだ。
目が合わないのをいいことに、私は余計なことを言うために口を開く。
余計なことと分かっていても、なぜか止められない。
「優太が誘ってくれて、ご飯食べてきた。」
「うん、知ってる。見てたもん。
俺、なんやあの人見たことある気がすんねんけど。Eテレあたりで。」
有名なおさるのキャラクターがぽわんっと頭に浮かび、思わず「ぷっ…」と噴き出してしまう。
そんな私を見てホッとしたのか、永瀬くんも下を向いたまま「んっふ」と小さく笑った。
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作者名：きのこ
| 作成日時：2023年8月21日 1時
