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「優太？」
ラックに囲まれた埃っぽい部屋。黙り込んだままの優太に声をかけると、優太は躊躇いがちに伏せた瞳のまま、ゆっくりとこちらを向いた。
「Aは、いいの？」
「…何が？」
「結婚して仕事辞めて主婦になりたいって、ずっと言ってたじゃん。けど、あの人が相手じゃ…」
「あはは…まぁ、少なくともあと2年は居候のヒモ生活かもね…」
優太が眉間に皺を寄せたまま、気まずそうに視線を外す。
きっと納得していないんだろう。
言いたいことを言いあぐねて、言葉を選んでいる顔。
「私ね、優太に置いて行かれちゃって寂しかった。毎日がモノクロで、それしかないからって機械的に仕事して、帰ってご飯食べてお風呂入って、あとは寝るだけだった。」
「…うん。」
「そんなとき、住むところに困った永瀬くんが、無理矢理私の家に押しかけて来たの。
最初は嫌だった。バイトのくせに何でもできる永瀬くんのことも、正直苦手だった。」
「………。」
「でもね、気付いたら私、また声出して笑えるようになってたの。最初は早くお金貯めて出て行って欲しい一心で、食費ももらわなかった。
けど、今は違う。私が養ってでも、彼にそばにいて欲しいの。間違っててもいいよ。」
優太はしばらく無言で床を睨みつけていたけど、そのうち「…そっか。」と力無く呟いた。
「だからやっぱり、もう優太と2人でご飯は行けない。ごめんね。」
「うん、わかった。相手がヒモでもそーゆーの守るとこ、Aらしいよね！」
「はは、そうかなぁ…」
軽くなった優太の口調にホッとして、どこか緊張していた胸を撫で下ろす。
「じゃあ俺、仕事戻るわ。」と笑う優太に、笑顔で頷いて見せた。
ポケットに両手を入れた優太がドアに向かって、いつかのように私のことを追い越して行く。
「関西への異動なんて、断りゃよかったわ。」
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作者名：きのこ
| 作成日時：2023年8月21日 1時
