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「…ツッコミどころしかねぇな。」
鍵のかかる会議室で、並んで項垂れる私と永瀬くん。
向かいでは、こちら東京本社での調査部部長である二宮さんと智くんと優太の3人が、揃って長い話を聞いていた。
「…大阪の調査部で、ちょっと話題になってたんスよね。設計部の永瀬部長の息子さんが、夏から連絡取れてないって。まぁプライベートなことだし、直接的に業務には関係無いってことで、とりあえずこっちは把握して終わり…って感じだったんスけど。」
そのときたまたま回って来た調査書に添付された永瀬くんの写真を見た優太は、派手な金髪の下のあんまり綺麗な顔に驚いて、その姿を鮮烈に覚えていたらしい。
「まぁ確かに、成人済みのアルバイト採用で、いちいち親元の確認なんてしないしね。
保証人を2コ上の同居人にされちゃあ、別支社の有力者の息子だなんてわかんないよ。
向こうからしたら、灯台下暗しって感じだろーけど。」
そう言いながら、なぜかちょっと可笑しそうに含み笑いしている二宮さん。
「…結局親には何の相談もせぇへんまま、院試受けることにしたんスけどね。今思えば、それもただの逃げやったかもしんないっスわ。」
「けど受かったらさぁ、言わないわけにはいかないよね？」
今度の二宮さんの声は案外真面目で、気のせいか、ほんの少しだけ心配そうに見える。
「そっスね…
けど、いざとなったら入学金なんかも自分で払お思ってました。Aさんのおかげで、この5ヶ月で結構貯まったんで…」
「え？…どういうこと？」
優太が怪訝そうな顔で、私たち2人を見比べている。
「永瀬くん、うちに居候してたんです。
生活費とかも、もらって無かったんで…」
「え、食費も？」
「うん…」
「それってもしかして………ヒモ…ってこと？」
「………。」
「どぉぉお〜してもカタカナ2文字で表さな死ぬ、って言われたら、そうなるかもしれないっスけどねぇ〜」
口籠る私の代わりに、いつもの調子いい関西弁が飛んできた。けど優太は笑うことはせず、むしろ苦々しく眉を顰めている。
優太のいなかった1年間に、隙間風のようにするりと舞い込んで来た、何も持たない歳下の美青年。
私も逆の立場でこんな話を聞けば、こんな表情をしていたに違いない。
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作者名：きのこ
| 作成日時：2023年8月21日 1時
