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「俺さ、関西支社で、調査部にいたんだよね。」
「え？」
蕎麦屋で向かい合った優太は、前置きも無しにいきなりそんな話を始めた。
調査部とは管理課の管轄内にある特別組織で、不正、汚職、下請け叩き等、まぁ時には社員の不倫問題とか異性問題とか…社内で「不祥事」と呼ばれる諸々が表沙汰になる前に証拠を掴んで是正したり、時には引導を渡したりする部署だ。
通称、公安。
「あの時さ、疑問に思いながらも上司の指示に従ってグレーな見積り作ってた俺なら、適任なんじゃないかって。」
「ああ、なるほど…」
「けど仕事の内容が内容だから、同僚や友達はもちろん、家族にも何してるか話しちゃいけないって言われてさ。俺、それまで何でも話して来たAに秘密を持たなくちゃいけないって考えたら、めちゃくちゃ不安で。
もし一緒に来てもらっても、言えないこととかたくさんあって、仕事の相談もできないんだなって思ったら、なんか明るい家庭のイメージとかできなくなっちゃってさ。」
「えっ…」
「どうしたらいいかわかんないまま、結局何も言えないで異動んなっちゃった。
マジで、すげぇ悪いことしたなって。俺なりに話そうと思ったんだけど、どうしても上手く説明できる気しなくてさ…」
「それは…うん…
あのー…多分、できなかったと思う…」
「……うるせぇな。」
自分で言い出したくせに、どこかつまらなそうな顔をする優太。いくら正義感が強いとは言え、こんなわかりやすい優太が、まさか調査部にいたなんて。
「だから向こうに行ったあともなるべく友達とか仲良い同僚とか作らないようにして、黙々と言われた仕事やってたんだけど、そしたらさすがに段々病んで来ちゃってさ。
元々隠し事とかも得意じゃないし、上司と相談して、結局1年でこっち戻してもらったんだ。」
「そうだったんだ…」
あの時、上の空の優太を見て、「仕事で精一杯で、私のことを考える余裕なんて無いんだ」と一方的に寂しく思っていたのは、お門違いだった。
優太はこれ以上ないほど真剣に、私のことを考えてくれていた。
けれど上手い言葉を選び切れず、結局私に勝手に失望されたまま、たった1人で見知らぬ土地へ向かったのだ。
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作者名：きのこ
| 作成日時：2023年8月21日 1時
