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おずおずと一口食べると、何度か頷いた。
口に合うとわかったらしい。
また一口食べてくれる。
「明日、どうするつもりだ」
「とりあえず三橋たちと話すよ」
「開久に勝てると思ってんのか？」
「勝つよ」
もう一口。
それから俺も、のびないうちに麺をすすった。
「世界一卑怯な三橋がいるんだ。負けるかよ」
相良の卑怯さに勝てるのは、あの三橋しかいないだろう。
伊藤のケガの具合はわからないが、あの男も開久との全面戦争になるとすれば全力で戦うに違いない。
軟高のテッペンは意外と強いのだ。
「悪かったな」
「ん？」
「俺が止めれりゃよかったんだが」
「謝るな。君の所為じゃない」
レンゲを持って、もう一口食べさせる。
それなりに腹は減っていたのか…しっかり完食してくれた。
「三橋と伊藤と鬼が出りゃ、相良も流石に苦戦するだろうよ」
「ん…」
鬼、という言葉に思わず反応してしまった。
「なんだ？」
「いいや、なんでも」
そうだ。
開久とやり合うなら鬼の面をつけなくてはならない。
(開久にバレるのも時間の問題か)
今のうちに覚悟を決めておこう。
「………………」
急に静かになった俺に、怪訝な目を向ける片桐。
「そんなに見るなよ片桐。大した事じゃないさ」
「…ならいいが」
君が何を心配することがあるのか。
「そういや」
「？」
「お前、俺の事片桐って呼ぶんだな」
なんだ急に。
…呼び方？
「そうだな、片桐って呼んでるな」
「大概の奴は俺を名前で呼ぶぜ。お前は呼ばないのか？」
「んー…基本俺はみんな苗字呼びだから、自然とそう呼んだだけだけど」
「問題ないなら名前で呼べ。なんかこそばゆいんだよ。…その代わり、俺もお前の事をAって呼んでいいか？」
すごく意外な提案。
「いいけど…人前ではダンソウメイって呼んでくれよ」
「あぁ」
名前呼びなんて、そんな細かいことを気にするんだな。
まぁ、いいや。
理子ちゃん以外に名前呼びの友達がいなかったから、男友達から名前で呼ばれるのは新鮮かもしれない。
「さっさと身体治しなよ」
「あぁ」
「おやすみ」
「………。おや、すみ」
(言い慣れてない感…！)
内心笑いそうになりながらも、食べ終えた食器をお盆に乗せて立ち上がった。
台所に戻る途中で居間を見ると、カップラーメンを啜るみんなと、一人大食い選手権が開催されてるテツがいた。
(腹壊しそう)
これを機に、もう少しテツの味覚がマシになればいいのに。
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作者名：黒のコ屋 | 作成日時：2022年7月30日 11時
