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何も突っ込まねぇのかと気になっていると、アイツは玉暖簾の前で振り返って「あんま重荷に思うなよ」と言った。
(重荷?)
なんだアイツ、マジで言ってんのか。
ザァァァァ…
俺のことなんざ気にも留めず、腕まくりするなり米洗い始めた。
「なんかクサクサすんな…」
不満に思いながら俺も玉暖簾をくぐる。
そのまま、流しの前に立つAの後ろを陣取った。
「A」
アイツが振り返った瞬間、その顔を両手で挟んで口づける。
驚いた顔が小気味いい。
「次あんなこと言いやがったら、これだけじゃ済まさねぇぜ」
ニヤリと笑うと、少しは気分が晴れた。
対するAはじっと俺を睨みつけると、濡れた手を近づけてくる。
「顔触っていいか」
「手ェ拭けよ」
「米の成分含んでるから、美容効果あるかもしれないぞ」
「…要らねぇよ」
これは照れ隠しなんか。
分からねぇが、これ以上からかわねぇ方がいいな。
顔を離してやると、ひと睨みして米を研ぎに戻る。
「朝ごはん食べたら家事手伝うよ」
「あぁ」
多分、照れ隠しだな。
Aに分からねぇように笑いを堪えると、気づかれたのか…水が飛んできた。
洗い終えた米を土鍋に移し、味付けをして火にかける。
炊飯器使わねぇってことは、白飯じゃねぇのか。
「これでよし」
「何作るんだ?」
「卵がゆ。アルコールで傷ついた腹に丁度いいだろ」
「フーン」
「煮立つまで少し時間あるし、相良起こしに行ってくる」
「ダメだつったら?」
「なんでダメなんだよ」
腕を広げて阻止しようとしたら、軽めの正拳突きして脇の間をすり抜けて行きやがった。
渋々相良の部屋に向かうAを見送る。
「…他の男ンとこ行かせたい奴なんざいねぇだろが」
そう呟いた苦言も、アイツにゃ届いちゃいねーんだろうがよ。
* * *
「相良」
ボーッとする頭に、痛みが走る。
…ぜってー飲み過ぎた。くそ気持ち悪ィ。
うずくまった毛布の中で、カーテンの引っ張る音が聞こえた。
ベッドが軋む。
「起きろ〜」
毛布がめくられて、眩しい光が降り注いだ。
目を閉じて顔を顰めると、細い指が俺の髪をわける。
「おはよ」
「…まぶい」
手で影を作って薄目を開ける。
俺の意図に気づいたAが、少しズレて陰になってくれた。
「ごめん、カーテン閉めるか?」
「いや、いい。…智司は?」
「台所。鍋の火見てもらってるんだ」
「なべ…」
「卵がゆ作ってる。腹に優しいぞ」
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黒のコ屋(プロフ) - S!nsei_zaさん» そ、そんな何回も読んで頂けるなんて…!糧すぎる!執筆の糧すぎるわ――!!(ドンチャン騒)これはとことん付き合ってもらいましょう!えぇ!勝手に連れて行きますかお気になさらry…((殴 スミマセンふざけ過ぎました。笑 応援コメントありがとうございます〜^^ (7月27日 18時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
S!nsei_za(プロフ) - 初めまして!いつも楽しく読ませていただいてます!何回も読み直すくらい大好きな作品です!三週目終わった所です…笑これからも応援してます! (7月23日 21時) (レス) id: 165fe81141 (このIDを非表示/違反報告)
黒のコ屋(プロフ) - 成瀬さん» コメントありがとうございます!主人公、ついにポロリと本音を出しちゃいました。もう本人の気持ちを知った元開久組に遠慮はありませんので、今後の絡みに乞うご期待ですね!(それを表現できる文才があるかどうかは別として)。最後までどうぞよろしくお願いします! (6月14日 17時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 個人的には書籍化して頂きたいくらいに大好きなお話なので、最後までついて行かせてください☺️これからもお身体にお気を付けて頑張って下さい。応援しています!! (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 主人公がどれだけ二人のことを、組のみんなを大事に思っているか、想いを読むだけで泣きそうになりました。そして名シーン、『二度と人の男に手ェ出すな』というセリフ、本当にかっこよかったです。智司相良と同じく目見開いちゃいました笑 (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒のコ屋 | 作成日時:2023年5月29日 18時