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「Aの事だ」
「はい」
「…その様子じゃ、何言われるか分かってたって感じだな」
「昨日の相良の扱い見てたら分かりますよ」
「悪ィようにはしてねェさ。…おめぇさんも、猛と同じ答えを出したんだろう?」
ぐい吞みに酒を注ぐ。
「父親の事があるから、てっきり男は作らねェと思ってたんだがな」
「俺らじゃ不満ですか?」
そう訊けば、3代目は酒瓶の栓を持ったまま驚いた顔をした。
そしてすぐに笑いだす。
「はっはっは!言葉が悪ィな。別におめぇらに不満があるわけじゃねェさ」
「?」
「アイツにとっての一番が、A組からおめぇらに変わる」
「………………」
「そうなれば、守る役割もおめぇらに託さなきゃいけねェってのが…少し寂しくてな」
酒瓶に蓋をして、何かを懐かしむように息をつく。
「可愛い娘を泣かせるなと脅すのが良い父親なんだろうがよ。俺ァおめぇらにAを託せるだけの信頼をすでに持っちまってる」
そう言って、3代目は俺を真っ直ぐ見据えた。
「なぁ、智司」
「はい」
俺も姿勢を正した。
「アイツのことを頼んだぜ」
柔らかい笑みを向ける3代目。
「大事にしてやってくれ。自分じゃそれができねェ奴なんだ」
「………………」
「おめぇ一人じゃ手に余るが、猛と一緒なら丁度いいだろう」
「なぁ?」といたずらに笑う。
俺も頬を緩ませた。
「任せてください」
この人は、ずっとAを守ってきた。
その想いを、今度は俺たちが受け継いでいく。
役目に不満なんざねぇ。
一生かけても担っていこう。
最後に深く頭を下げると、3代目は満足そうに頷いて笑った。
ぐい吞みの中身を飲み干して、灰皿に置いたままだった煙管を袱紗に包むと胸元にしまう。
「さぁて、俺ァ少し休むかな」
そう言って、3代目は部屋に戻っていった。
「………………」
言いようのない小さな興奮。
落ち着かない鼓動。
抑える為に胸のあたりのシャツを握ると、深く呼吸をして気持ちを整えた。
「ふぅ…」
いつまでもこうしちゃいれねぇ。
Aの飯作ってやらなきゃな。
改めて台所に向かおうと廊下に出た瞬間、扉の横にAが居て飛び跳ねそうになった。
「お前…」
着替えが終わって、俺を手伝おうと降りてきたらしい。
「聞いてたのか?」
「…まぁ、ちょっとだけね」
それだけ言って、台所に向かうA。
少し遅れて俺もその後を追う。
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黒のコ屋(プロフ) - S!nsei_zaさん» そ、そんな何回も読んで頂けるなんて…!糧すぎる!執筆の糧すぎるわ――!!(ドンチャン騒)これはとことん付き合ってもらいましょう!えぇ!勝手に連れて行きますかお気になさらry…((殴 スミマセンふざけ過ぎました。笑 応援コメントありがとうございます〜^^ (7月27日 18時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
S!nsei_za(プロフ) - 初めまして!いつも楽しく読ませていただいてます!何回も読み直すくらい大好きな作品です!三週目終わった所です…笑これからも応援してます! (7月23日 21時) (レス) id: 165fe81141 (このIDを非表示/違反報告)
黒のコ屋(プロフ) - 成瀬さん» コメントありがとうございます!主人公、ついにポロリと本音を出しちゃいました。もう本人の気持ちを知った元開久組に遠慮はありませんので、今後の絡みに乞うご期待ですね!(それを表現できる文才があるかどうかは別として)。最後までどうぞよろしくお願いします! (6月14日 17時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 個人的には書籍化して頂きたいくらいに大好きなお話なので、最後までついて行かせてください☺️これからもお身体にお気を付けて頑張って下さい。応援しています!! (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 主人公がどれだけ二人のことを、組のみんなを大事に思っているか、想いを読むだけで泣きそうになりました。そして名シーン、『二度と人の男に手ェ出すな』というセリフ、本当にかっこよかったです。智司相良と同じく目見開いちゃいました笑 (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒のコ屋 | 作成日時:2023年5月29日 18時