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92話


朝。
ゆっくり開いた視界に、窓から差し込んだ光が映る。
視線をずらすと細い腕が見えた。

「………………」

胸のあたりに手触りのいい髪。
ゆっくり上下する肩。
好きな女が、そこにいる。

「A」

腕が動いた。
もぞもぞと胸の中で動き出す固まりは、眠そうな目をこすりながら、癖の付いた髪を払う。

「…そうだった…君いたんだな」

随分な言葉だな。

「起きたか?」
「おきた」

かすれた声。
いつもは支度を終えた姿しか見られねぇから、こういう時は特別な気持ちになる。

(今だけは俺のもの)

もうほとんど癖になっちまってる頭を撫でる行為。
大した力も入れてねぇのに、そのままボスッと俺の胸に顔が埋まった。

「………………」
「………………」
「………………」
「おい、寝んな」

時計の針は8時を指していた。



 カメレオン



「ふぁ…叔父さんたち帰ってきたかな」
「昨日ギンさんが日が出る前には解放するつってたからな、流石にもういるだろ」

寝ぐせを解く指。
仕方がなさそうに起き上がったAが「着替えたい」と遠まわしに出て行くよう言ってきた。

「俺は気にしねぇぞ」
「俺が気にする」
「風呂入った仲だろ」
「お腹空いたから、早く朝食作ってくれ」

適当な理由をつけたってのはわかってんだが、そう言われちゃ出て行くほかねぇ。
仕方がなく部屋を出て行くと、俺もついでに自分の支度をしに部屋へ戻った。

(付き合ったからって、大して態度は変わらねぇんだな)

適当に服を見繕って身支度を済ませると、台所に向かおうとしたところで突然居間の扉が開いた。


「おう、智司」


3代目だ。

「…徹夜ですか?」
「馬鹿言え。年寄りは朝が早ぇんだよ。癖ついちまってるから、厄介な時間に起きちまってな」

顔を見ると、薄っすら浮かんだ隈。
ほとんど寝てねぇんじゃ…。

「40後半は年寄りじゃないっすよ」
「俺の説法をジジ臭ぇと言ったのはおめぇさんだぜ?」
「?」
「フフッ、なんでもねぇサ。それよりちぃと付き合えるか」

3代目の提案に、俺は一瞬返事を躊躇した。
恐らく要件は、昨日の相良と同じものだろう。

(避けては通れねぇよな)

諦めて居間に入ると、向かい合う様に腰を下ろす。
机には火種の落ちた灰皿と煙管。そしていつもの酒瓶とグラスが置いてあった。

(時間潰しに迎え酒でもしてたのか)

3代目がわざとらしく咳払いをすると、俺はすぐに机から視線を上げた。

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作品ジャンル:恋愛
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黒のコ屋(プロフ) - S!nsei_zaさん» そ、そんな何回も読んで頂けるなんて…!糧すぎる!執筆の糧すぎるわ――!!(ドンチャン騒)これはとことん付き合ってもらいましょう!えぇ!勝手に連れて行きますかお気になさらry…((殴 スミマセンふざけ過ぎました。笑 応援コメントありがとうございます〜^^ (7月27日 18時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
S!nsei_za(プロフ) - 初めまして!いつも楽しく読ませていただいてます!何回も読み直すくらい大好きな作品です!三週目終わった所です…笑これからも応援してます! (7月23日 21時) (レス) id: 165fe81141 (このIDを非表示/違反報告)
黒のコ屋(プロフ) - 成瀬さん» コメントありがとうございます!主人公、ついにポロリと本音を出しちゃいました。もう本人の気持ちを知った元開久組に遠慮はありませんので、今後の絡みに乞うご期待ですね!(それを表現できる文才があるかどうかは別として)。最後までどうぞよろしくお願いします! (6月14日 17時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 個人的には書籍化して頂きたいくらいに大好きなお話なので、最後までついて行かせてください☺️これからもお身体にお気を付けて頑張って下さい。応援しています!! (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 主人公がどれだけ二人のことを、組のみんなを大事に思っているか、想いを読むだけで泣きそうになりました。そして名シーン、『二度と人の男に手ェ出すな』というセリフ、本当にかっこよかったです。智司相良と同じく目見開いちゃいました笑 (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:黒のコ屋 | 作成日時:2023年5月29日 18時

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