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そういう優しさを平然とやってのける。
気づいて照れくさくなるのは俺だけなんだろうか…。
(普通の女の子は、こういう時どんな反応をするのが正解なんだ)
理子ちゃんは素直に「ありがとう」と言いそう。
京子ちゃんはうっとりした目で伊藤を見てるかもしれない。
そんなことを思いながら、隣に立つ智司の顔を盗み見る。
暗闇を見据える目は、いつ見ても真っ直ぐで気持ちがいい。
いつまでも見つめていたいと思う。
「…なんだ、じっと見て」
「イイ男だなって思ったんだよ」
「面が、か?」
「面も、だよ」
波打ち際で足を止める。
手は繋いだままだ。
その指から伝わる熱が心地よくて、少しだけ強く握った。
「君たちに会えてよかった」
ふわり、と風が前髪を揺らす。
「なんだ、藪から棒に」
「だって…色んな事教えてくれただろ」
人生の先生みたいだ、って言えば呆れられた。
別になんもしてねぇよ、って。
「先生は言い過ぎでも、色をつけてくれたのは確かだよ。知らない感情も教えてくれた」
「………………」
「墓参りに行ったら父はびっくりするだろうな。“同じ人物とは思えない”なんて言われそうだ」
「父親の墓参り、行くのか」
「行くよ。今までは叔父さんに任せてたけど、そろそろ向き合ってもいいかなって」
乗り越えた過去を、いつまでも放置してられない。
「なんて報告するんだ?」
「それは行ってからのお楽しみ」
酒と花束は必須アイテム。
俺のやることに驚く彼らを想像すると、少し楽しみとさえ思えてきてしまう。
そんな風に思えるようになったのは、間違いなく君たちのおかげなんだ。
「………………」
柄にもなく、笑みが零れそうになって俯いた。
落ち着けて、タイミングを計っていたあの話題を出す。
「そういえばさっき、相良に言ったんだ。好きって」
不意を突いた発言に、智司が一瞬目を見開いた。
けど、すぐいつもの表情に戻る。
「…だろうな。アイツの態度見てたらわかる」
「わかるのか」
「俺のことも言ったんだろ?」
「えっ」
「多分アイツ、気にもしねぇぜ」
そう言って智司が笑った。
もしかして…
「知ってたのか?」
そう訊けば、智司が真っ直ぐ俺を見つめ返してきた。
「ずっと見てりゃ、なんとなくわかる」
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黒のコ屋(プロフ) - S!nsei_zaさん» そ、そんな何回も読んで頂けるなんて…!糧すぎる!執筆の糧すぎるわ――!!(ドンチャン騒)これはとことん付き合ってもらいましょう!えぇ!勝手に連れて行きますかお気になさらry…((殴 スミマセンふざけ過ぎました。笑 応援コメントありがとうございます〜^^ (7月27日 18時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
S!nsei_za(プロフ) - 初めまして!いつも楽しく読ませていただいてます!何回も読み直すくらい大好きな作品です!三週目終わった所です…笑これからも応援してます! (7月23日 21時) (レス) id: 165fe81141 (このIDを非表示/違反報告)
黒のコ屋(プロフ) - 成瀬さん» コメントありがとうございます!主人公、ついにポロリと本音を出しちゃいました。もう本人の気持ちを知った元開久組に遠慮はありませんので、今後の絡みに乞うご期待ですね!(それを表現できる文才があるかどうかは別として)。最後までどうぞよろしくお願いします! (6月14日 17時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 個人的には書籍化して頂きたいくらいに大好きなお話なので、最後までついて行かせてください☺️これからもお身体にお気を付けて頑張って下さい。応援しています!! (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 主人公がどれだけ二人のことを、組のみんなを大事に思っているか、想いを読むだけで泣きそうになりました。そして名シーン、『二度と人の男に手ェ出すな』というセリフ、本当にかっこよかったです。智司相良と同じく目見開いちゃいました笑 (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒のコ屋 | 作成日時:2023年5月29日 18時