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手を握られて、ドアの方に向かう。
掴む力は加減してるのに、足は速い。
まだ機嫌は直ってないらしい。
女将さんが用意してくれた別室は8畳ほどの和室だった。
座椅子が2つに、机の上には軽食とお酒が置いてある。
「で、話って何だ」
相良は俺から手を離すと、少し離れた壁に背を預けた。
わざとらしい距離。
いつもみたいに、目を合わせてくれない。
「………………」
心が、ぎゅっとなる。
この“痛い”は、たぶん“辛い”んだ。
「相良」
寂しいなんて思うのは、俺だけかな。
「この前は逃げてごめん」
「………………」
「君の事傷つけた」
相良は口を開かない。
ただじっと俺の話を聞いている。
「大事って言っておきながら、いつも傷つけてばっかりだな」
「そういうセリフは聞きたくねぇ」
「…そっか。悪い」
話の切り出し方がわからなくて、言葉に詰まった。
落ち着きなく触れたカフスボタンが思い出させる京子ちゃんの言葉。
“頑張ってください、Aさん”
「――――あの…さ」
頑張りたい。
違う、頑張らなきゃ。
ちゃんと言葉で伝えるんだ。
たとえ、それで離れ離れになったとしても。
「俺…その……」
あの言葉は嘘じゃないってことを
君に
「ッ―――だぁ、もう!」
「!?」
駆け寄って、相良に抱き着いた。
「好きだ」
勢いづけて、そう言い放った。
訪れる静寂。
抱きしめられるでもなく、何か言い返すでもない。
それに気づいた途端、一気に不安が広がった。
(…あれ?…これ…たぶん頭おかしいよな…急に抱きつくとか…)
徐々に身体を支配する熱さ。
今更自分の行動に恥ずかしさを感じてる。
「あ、そ、その…!違う、間違えた!…き、君の事は好きなんだが、その実は―――」
そう言って顔を上げた瞬間、相良の唇が重なった。
驚いている間に、すっと差し込んだ手が俺の身体を抱きしめる。
足元がふらついて、と、と、と…と後ろに下がったのを追い込むように彼は俺ごと向かいの壁に押さえつけた。
ドンッ
「ん…ぅ…」
息を吸う余裕もなくて、苦しくて、相良の服を掴む。
その手を掬い上げられて、指が絡んだ。
「は……っ…ん…」
長いキス。
ギュッと抱き寄せられながら、壁と相良の身体に挟まれて、より密着する。
頭がボーッとして力が抜ける。
「はっ…さが、ら……」
「ハァ…ハァ…」
そのまま座り込んだ。
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黒のコ屋(プロフ) - S!nsei_zaさん» そ、そんな何回も読んで頂けるなんて…!糧すぎる!執筆の糧すぎるわ――!!(ドンチャン騒)これはとことん付き合ってもらいましょう!えぇ!勝手に連れて行きますかお気になさらry…((殴 スミマセンふざけ過ぎました。笑 応援コメントありがとうございます〜^^ (7月27日 18時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
S!nsei_za(プロフ) - 初めまして!いつも楽しく読ませていただいてます!何回も読み直すくらい大好きな作品です!三週目終わった所です…笑これからも応援してます! (7月23日 21時) (レス) id: 165fe81141 (このIDを非表示/違反報告)
黒のコ屋(プロフ) - 成瀬さん» コメントありがとうございます!主人公、ついにポロリと本音を出しちゃいました。もう本人の気持ちを知った元開久組に遠慮はありませんので、今後の絡みに乞うご期待ですね!(それを表現できる文才があるかどうかは別として)。最後までどうぞよろしくお願いします! (6月14日 17時) (レス) id: ec11750d33 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 個人的には書籍化して頂きたいくらいに大好きなお話なので、最後までついて行かせてください☺️これからもお身体にお気を付けて頑張って下さい。応援しています!! (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)
成瀬(プロフ) - 主人公がどれだけ二人のことを、組のみんなを大事に思っているか、想いを読むだけで泣きそうになりました。そして名シーン、『二度と人の男に手ェ出すな』というセリフ、本当にかっこよかったです。智司相良と同じく目見開いちゃいました笑 (6月13日 20時) (レス) id: 778f9ea582 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒のコ屋 | 作成日時:2023年5月29日 18時