赤眼は太陽に焦がれる (ページ1)

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序章ページ1

大凡千年前＿京の都

脈々と続く歴史ある貴族の屋敷が
轟々と紅蓮の炎を上げて燃え盛っていた

その屋敷を死に物狂いで走る童が一人
もうじき元服を迎える歳頃であろうその童は臓物を散らし
肉塊と成り果てたモノに脇目も振らずに走り続けた

『母上ｯ！弟(おと)ｯ！何処かｯ⁉』

屋敷の大半は既に火の手が回り
血の匂いやら人の焼け焦げた匂いやらが立ち込める

「母は此処です！」

「あにうえ！わたくしもここにおります！」

童に母と呼ばれた女人は彼女によく似た幼い黒髪の小童を抱えて
まだ比較的火の回りが少ない一室に身を潜めていた

「一体何があったのですかｯ⁉」

童の母は小童を抱く腕に力を込めてそう聞いた

燃え盛る屋敷と時折聞こえる断末魔…
己の住む屋敷にただならぬ禍が襲い掛かったのだと
腕に抱かれた幼い小童でも理解できた

『…父上の…ご乱心です
医者を殺し女中を殺しお爺様やお婆様までもを手に掛け
その血肉を喰らい屋敷に火を放ちました…

一族はもう駄目です

どうか…二人だけでも逃げて下さい
そして今日の事はもう忘れて下さい

…此れからは……そうですね…
“産屋敷“と名乗るといいでしょう
二度と…今の名を名乗ってはなりませぬよ…？』

童はその手に持っていた幾ばくかの資産を母に手渡した
屋敷の資産を鑑みれば微々たるものだが当面の暮らしには苦労しないはずだと…

「此処に残るつもりですか……？母は許しませんよ⁉
義父様も義母様も…彼の人に殺されてしまったのでしょう⁉
貴方も共に逃げるのです！」

そう訴える母に童は静かに首を振った

童の脳裏には喰い千切られた女中"だった"ものと骨も残らず喰い尽くされ血濡れの着物のみが遺された祖父母の姿

『父上は血縁である私たちを喰らうつもりなのです
3人で逃げては必ず追いつかれます

アレはもう化生の者なのです
世に解き放ってはならない…
私がこの場で討ちます…彼の人の息子として…』

「あにうえはいっしょにこないのですか…？」

『あぁ…兄は父上を探しに行く
母上を頼んだよ？お前だけが頼りなんだ…』

童は小童の頭を撫でた
まるで惜しむように…最後(最期)だとでも言うように…

『母上を困らせてはいけないよ
勉学に励み剣舞を磨け…立派な当主になれ

どうかお達者で……』

そう言って童は刀を手に悲劇の渦中に
振り返ることなく走り戻っていった

それが童の……人間としての最後の姿であった