プリムラの蕾10 ページ44
｢大野さんって、なんというか行動力あるよね｣
家まで送ると言って聞かないから、手を繋ぎながら俺の家まで並んで歩く。
もう、相葉さんに顔向けできない。振っただなんて嘘みたい。どっからどうみてもラブラブなカップルだ。
｢いやもう限界だったんだよ。最後にちゃんと会話したのだって、ニノに振られたときだし｣
振られた男とは思えない態度。
顔を覗き込まれながら言われる。
｢ニノ、ちょっと痩せた？｣
そう言ってる大野さんの目の下にも立派なくまができてる。限界なのは本当だったんだろう。
｢え、そうかな…俺よりも大野さんだよ。晩飯抜いてない？｣
｢んふふ、確かに俺が人のことは言えないわな｣
｢今日食べた？｣
｢んー…タバコ｣
｢あれ食いもんじゃないよ｣
大野さんの声はちょっと眠たくなる。とろんって気持ちよくなって、安心してしまう。
周りには誰もいない路地を、ちょっとメロウな音楽のリズムみたいな歩幅で歩く。月だけが俺たちを見てる。
｢ん、着いた｣
すっかり俺の家までの道のりを覚えてしまった大野さんが、俺のアパートをみて目を細める。
｢会えてよかった。ありがとう｣
｢大野さん、どうやって帰るの？もう終電ないよね？こっから結構遠いでしょ？｣
｢どうとでも。駅まで出てタクるよ｣
大野さんの手は、ちょっと温かいんだ。骨ばった手をなぞるみたいに触れて、その体温が、少し名残惜しかった。
少し黙る俺に、大野さんが不思議そうに首を傾げるのをみて、なんか、本当にこの人が好きだなあって思ってしまう。
びっくりするくらい疲れてる。すぐに帰って寝た方がいい。なのに俺に会いたいってだけで、自分家と反対方向に向かってくるんだもん。
｢うち泊まる？｣
｢え？｣
｢や、ほんとなんもお構いできないけど、今から反対向いて家帰るよりは寝る時間確保出来るでしょ｣
｢………｣
大野さんが絶句して固まってる。
のをみて、今更ながらハッとする。
｢や、あの、ほんと、やらしい意味は全くなくて…｣
大野さん、酷いくまだから…ちょっとでも長く休めるなら…ってもごもごしながら言うと、大野さんがやっと笑って
｢俺もニノと居たい。絶対何もしないから行きたい｣
だなんて言うからさあ、ほんともう。
なにかあるのを期待してしまう。
お母さん、相葉さん、俺はこんなにもダメな男でした。
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作者名：楽斗 | 作成日時：2021年11月6日 0時
