プリムラの蕾09 ページ43
｢月を見てると、ニノに会いてぇなあと思って｣
｢んふふ、なんで｣
｢ニノの金髪が思い浮かんでさ｣
照れ隠しで言うと、大野さんには照れって感情がないのか、｢ニノと一緒にお月見したくなったから｣なんて、誤魔化すことなく言われる。
｢あれから1ヶ月くらい経ったけど、ニノ、髪の毛染めた？｣
｢あ、うん、黒染めしたわけじゃないけど、ちょっと暗めにして短く切ったよ｣
｢へぇ、見てみたいなあ｣
大野さんとは、あれから全然会ってない。
大野さんは金木犀の慰労会も兼ねてご飯いこうって誘ってくれてたんだけど、お互いのスケジュールを合わせようとしてるうちにズルズルと流れてしまった。
｢ニノ｣
｢なに？｣
｢会いたい｣
俺も会いたかった。
会って、大野さんに抱きつきたかった。
でもそれって、恋人じゃん。
そんな高望みは出来ない。
｢会いに行ってもいい？｣
｢え、だってこんな遅いよ｣
電話口の大野さんが黙る。
｢うん、ごめん。でももう向かってる｣
る、って声が後ろから聞こえた気がして振り向くと、人影が見えた。
｢え、大野さん？！｣
俺が声をあげると、表情なんてあんまり見えないくらい遠いはずなのに、ぱあって明るくなったみたいに駆け足で近づいてくる。
｢え、なんっ｣
でいるのって言おうとしたのに、大野さんが駆け寄った勢いのままぎゅって抱きしめてきた。
同じくらいの背だから、俺の肩に顔を埋めて｢ニノ｣ってくぐもった声が聞こえる。
｢めっちゃキモイことしてごめん｣
おずおずと背中に腕を回すと、大野さんの抱きしめる力が強くなる。
｢いや、そんなことは…｣
1ヶ月ぶりの大野さんだった。
どうしよう、本物が居る。大野さんの匂いと大野さんのタバコの臭いが混ざったものが香ってきて、
泣きそうになってしまう。
｢どうしても会いたくって、ニノのバイトの帰りと一緒くらいだなって思ったら、もう居てもたってもいられなくて｣
｢うん｣
大野さんがゆっくり顔を上げて、俺の顔みてふにゃって笑う。
｢似合ってる。髪｣
俺の前髪をくしゃって撫でる。
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作者名：楽斗 | 作成日時：2021年11月6日 0時
